『潤いが欲しいんだよ』








 目の前でゆれる自分の髪をつまみながら、刹那は最後に髪を切ったのはいつだったか、と考える。ここに来る直前に切ったからもう3ヶ月は伸ばしっぱなしにしていたことになる。なるほど、どうりで邪魔だと感じるようになるわけだ。


 切ろうにも、まだ住み始めたばかりの町の散髪屋の場所など知らない。刹那は訓練等で出かける以外の外出をしていないのだから、それも仕方がないと言えよう。


 とりあえず、新聞紙と手鏡を用意していく。明らかに自分で切る気マンマンだ。スメラギが見たら悲鳴をあげるであろう行為の準備を刹那はさも当然とばかりにこなしていく。


 そこで気が付いた。はさみがない。否、ないこともないのだが、自分の部屋においてあるはさみは子供用の小さな物で、髪を切るには向いていない(大人の要の大きな物でも向いていないのだろうが)。


 一階に降りてはさみを探すが場所が分からない。誰かに聞くのが一番であろう。幸い、刹那以外のメンバーは暇そうにリビングにたむろっている。


 「ロックオン、はさみどこだ?」


 「そこの棚の上だけど、お前の部屋にはさみなかったけ?」


 「あれでは小さすぎて髪を切れない」


 「紙? なんか工作でもするのかー?」


 子供の工作は見ていてほほえましいものだが、おしい、ロックオンが思っている『かみ』は少し違う。


 「別に工作などしないが」


 「へ? じゃあ何するんだよ?」


 ロックオンの問いに、刹那はさも当然だと言わんばかりに己の髪の毛を指差しながら、


 「だから、髪を切るんだ」


 「「「・・・・・・・・・」」」


 ロックオンはもちろんのこと、そばで話を聞いていたアレルヤとティエリアも唖然とする。


 三人の表情に刹那は気付かず、棚の上にあったはさみを取ると部屋から出て・・・・いく直前でアレルヤに止められた。


 「せ、刹那。まさかそのはさみで自分の髪の毛を切るつもりだったの?」


 「最初から髪を切ると言っただろう」


 「いや、普通は違う紙だと思うだろ。てか、せめて専用のはさみを使え」


 「そういう問題ではないだろう、ロックオン」


 どこかずれた注意をするロックオンをティエリアが訂正する。アレルヤはひとまず刹那からはさみを取り上げると、問題の髪の毛に触れた。


 「確かにちょっと長いかもね。でも女の子なんだし、伸ばせば?」


 「そーだ、刹那。いい機会だから伸ばしてみろよ。ティエリアみたいに」


 「でも、ヘルメットをかぶるとき邪魔になるだろう?」


 刹那の反論に言葉に詰まる二人。


 「そうでもないぞ、刹那。ヘルメットの時には紐で縛れば邪魔にならないだろうしな」


 「そうなのか?」


 「ああ」


 ティエリアの言葉にふーんと呟く刹那。アレルヤとロックオンもそうだそうだ、と後押しする。


 「とりあえず今回は前髪だけ切ってやっから」


 「ん、前髪が邪魔にならなければそれでいい」


 刹那の言葉に三人が内心でガッツポーズしたのは言うまでもない。







 君はむさくるしい男の園に咲いた一輪の華。


 だから、君に潤いを求めたって良いだろう?








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