『安眠を、彼女に』
ティエリアがリビングに下りてくると、見事に誰もいなかった。確か今日はアレルヤとロックンが訓練だとかで出かけていて、自分のほかにはあの無口な少女しかいない。
先日発覚した事実については、ティエリアも色々思うところがあったのだが、結局はヴェーダの人選ということで納得した。ガンダムマイスターに、性別は関係ない。
キッチンでコーヒーを淹れ、騒がしい輩がいないこの時間をくつろごうとソファーに座ろうとして・・・・・先客を発見した。
すやすやと眠っている刹那。身体が小さくて完全にソファーに隠れていたためか、全く気付かなかった。
「自室で寝ればいいものを・・・・・」
なんとかテェエリアが座る文だけのスペースは空いているので、刹那を起こさないように慎重に座る。だが、くつろごうにも隣で寝られては落ち着かない。
びくん、と刹那が身動ぎをしてティエリアは硬直した。起きる様子はないが、とにかく驚いた。
「ごめん・・な、さい・・・」
「!?」
突然聞こえた言葉に、ティエリアは傍らの少女を凝視する。見れば、彼女の目じりには涙が浮かんでいる。
「ごめ・・さい・・ごめん・・い」
まるで誰かを求めているかのように伸ばされた手を、ティエリアは反射的につかんだ。
「アリー」
最後にそれだけ呟くと、刹那は何も言わなくなった。ティエリアは呆然としながらも、手を離すことはしない。
もう片方の手で彼女の髪を梳きながら、ふと、スメラギの言葉が脳裏に浮かんだ。
「眠れ、刹那。少しは楽になったのだろう」
返答代わりの健やかな寝息を聞いて、ティエリアは満足した。だが・・・・
「だだいまー 土産にリンゴ買ってきたぜー」
「今帰りました。あれ? 刹那ー? ティエリアー?」
乱暴に扉を閉める音、騒がしい大声に、今落ち着いて寝たばかりの刹那がむにゃ・・・と目を覚ましてしまった。
「あ、いるじゃん、刹那とティエリア」
「刹那、ただいまー」
そう明るくやってきたアレルヤとロックオンは、振り返ったティエリアの顔を見て石化した。
「ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズム」
地獄の底から響いてくるようなゴゴゴという音をBGMに背負ったティエリアに、誰が返事を出来ようか。
「そこに正座しろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その後、鬼のような形相をしたティエリアに、正座でたっぷり二時間は説教されたアレルヤとロックオンだった。