『僕らの戸惑いと彼女の傷』
「で、結局何者なんですか? 刹那は」
ロックオンの問いに、ソファーでくつろいでいたスメラギは「どういう意味?」と首をかしげた。
「そのまんまの意味ですよ。確かに、CBのメンバーの個人情報を尋ねるのはご法度ですけど。さっきの騒ぎや、アレルヤが見たって言う大量の薬。ここまで怪しげな要素満載だと笑えてきますね」
ティエリアの咎めるような視線を受けても、ロックオンは平然としている。アレルヤは顔は笑っているが、目は真剣だ。
「・・・・刹那はどこ?」
「自室にこもってますよ。本人には聞かせたくないってことですか」
「ええ、あの子にわざわざ思い出させる必要はないわ。ティエリア、この場合は仕方ないわよね?」
「個人情報がどうたらなんて言ってられないわよー」というスメラギの言葉に、ティエリアも渋々頷く。
「さて、どこから話したらいいのやら・・・・
とりあえず、アレルヤが見たって言う薬は本当に刹那の治療のためなのよ」
「え、じゃあ刹那は病気なんですか?」
心配そうな顔するアレルヤにスメラギはひらひらと手を振る。
「病気は病気でも、心の、ね。
刹那は二年前にアザディスタンで保護されたの。当時のアザディスタンの様子はあなた達も知っているでしょう? 発見されたときの刹那は、身体・精神共にボロボロの状態だったにも関わらず、少年兵として戦場に出されていたわ。
医者に見せたら、極度の栄養失調及び虐待にも等しい性行為のせいで人格崩壊まで起こしていると診断されたわ。
それから二年かけて、やっとあそこまで回復したのよ」
「どう、少しは理解できた?」と勤めて明るくしようとしているスメラギとは正反対に、三人の雰囲気はどんどん暗くなっていく。
「今の刹那の生きがいはガンダムよ。ガンダムマイスターとしてあの子以上の適任はいないわ。だからこそ、ヴェーダも刹那を選んだ」
そして、あなた達も選ばれた。スメラギの言葉にロックオン達は神妙な顔で頷いた。刹那だけではない。各々、何かを思うところがあるからこそ、この計画に参加したのだ。
「私がこの話を呑んだのは、他人に触れる事が刹那の治療につながると考えたからよ。少し荒療治な感じもするけど、時間がないの。あなたたちに、まかせてもいいかしら?」
スメラギは彼らが頷いたのを確認すると、大きく安堵の息を吐いた。
人間に傷つけられた少女。
その傷を癒すのも、人間なのだろう。