『傷の欠片』
アレルヤ・ハプティズムは悩んでいた。
新しく自分のものとなった部屋に荷物を運びいれ(とは言っても、自分のものなどほとんどないのだが)、新品のベットに腰掛けながら、今後の生活について考える。
自分を含めた、四人のマイスター候補者たち。これから一緒に暮らしていく、そしていつか肩を並べて世界を相手に戦っていくかもしれない、仲間たち。
(仲良くしたほうが、いいよね)
アレルヤは仲間同士の絆にあこがれていた。以前、アレルヤは自らの手で同士を殺してしまったから。
よみがえった嫌な記憶を振り払うかのように頭を振り、ベットから立ち上がる。とりあえず、この家を見てまわる事にしよう。
(あれ、は・・・・)
歩き始めて数分たった頃。
アレルヤはとある扉の前でうずくまる子供を発見した。
(確か、名前は)
刹那・F・セイエイ。若干12歳のガンダムマイスター候補者。
自分と歳が近い、ということもあり、アレルヤはうずくまっている刹那に笑いかけた。
「どうしたの?」
その声に刹那はびくっと身体を震わせ、アレルヤを見る。だが、何も話そうとはしない。
「荷物、運び終わった?」
ゆっくり、なるべく優しく聞こえるように問いかけると、ふるふると頭を振って答えた。
話さない、けれど、自分を無視するわけでもない。
そんな刹那に、アレルヤはにっこりと微笑んだ。
「ぼくはもう終わったから、手伝ってあげるよ。荷物、どこ?」
刹那が指差したのは、小さな子供用のショルダーバックとその脇に置かれている小さな包み。
「あれだけ?」
こくん、と頷く刹那をアレルヤは不思議に思った。今の今までとある施設にいたアレルヤには私物があまりない。それは仕方のない事だ。だが、まだ子供である刹那の私物が、あれだけというのはなぜだろうか。
考え込んでいたアレルヤだが、刹那の視線に気付き「なんでもないよ」と手を振って荷物を運んだ。
刹那の部屋は、大体アレルヤに与えられた部屋と同じような構造になっているようだ。机、クローゼット、ベット、と必要最低限な調度品以外には何もない。
「刹那ーこの荷物、ここでいい?」
刹那が頷いたのを確認すると、包みを近くにあった机の上におく。だが、アレルヤの置き方がまずかったのか、包みは解け、中身が辺りに散らばってしまった。
「わっ!! ごめん、刹那」
慌てて拾い集めるアレルヤは、とある物を見つけた。
「刹那、これ・・・・・」
それは大量のカプセルや錠剤。見たところ色々な種類のそれが、大量にある。
12歳の子供が持つには、不似合いな代物。
「スメラギ・李・ノリエガが俺に必要だと・・・・」
「スメラギさんが?」
「ああ。『治療』の為らしい」
そういえば、スメラギが治療がどうたらと言っていたのを思い出す。それでは、刹那は病気なのだろうか。
「刹那、身体悪いの?」
「よく、わからない・・・・・」
心配になって訊いたアレルヤは返ってきた答えに首をかしげた。
(まだ12歳だし、難しい事はわからないのかな)
自分の中でそう結論付けると、アレルヤは作業を再開したのだった。
この時の行動を、僕は何度も悔やんだ。
なぜ、もっと早く彼女の傷に気付かなかったのかと。