『情操教育って知っていますか?』
ばたん、と背後で扉が開く音がしたけれど、アレルヤは目を向けなかった。今読んでいる本がいい場面なのだ。ぺたぺたと足音が後ろを通って台所へと向かっていったから、きっと入ってきたのは刹那だ。時間的に風呂上りのはずから、いつものようにミルクを飲みに来たのだろう。
「アレルヤ、ミルクがない」
「あー、ミルクなら昨日買っていたのがそのへんにあると思うん」
そう言いながら振り返ったアレルヤは硬直し、そして。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫を聞きつけて慌てて自室から駆けつけてきたティエリアは、目の前の光景に唖然となった。
顔を真っ赤にし、ソファーに倒れこんでいるアレルヤ。
ミルク片手に、裸体にタオルを巻きつけただけという格好でうろつく刹那。
瞬時に己が取るべき行動を知ったティエリアは、急いで着ていたカーディガンを脱いで問答無用で刹那に被せると、続いてタオルを冷水で濡らしてアレルヤの顔にかけた。
「刹那、ここに座れ」
なんで、という顔をした刹那だが、ティエリアの背後に出現した般若を見た瞬間、大人しく正座した。
「まず、君は何をしていた」
「ミルクを探していた」
「その格好でか?」
何か問題でも? と頷く刹那に、ティエリアは叫んだ。
「君は自分が女性だということを認識しろ! 風呂上りにタオルでうろつくなど、風邪を引いたらどうするんだ!! そっこく服を着て来い! もう二度とやるな! だいだい、誰がこんなまねを・・・」
「あいつ」
刹那が指差した先には。
片手にビールの空き缶、腰にタオルを巻いただけという風呂上り姿に「あ、やべ」という表情で立ち尽くすロックオンが。
「貴様が原因かァァァァァァァァァ!!」
ロックオンの頬に出来た痣は、二日は消えなかったという。