『髪型会議』
「なんだ、その頭は」
まだ半分眠っているような顔でリビングにやって来た刹那を見た瞬間。
ソファーでモーニング・コーヒーを飲んでいたティエリアは、「おはよう」でも「顔洗って来い」でもなく、呆れたような表情でそう言った。
何を言われたのかよく分かっていない刹那のために、ティエリアは手鏡を取り出して刹那に見せる。鏡に映っていたのは、まるで鳥の巣のようなぼさぼさの頭をした少女だった。
「さては、またシャンプーした後乾かさないで寝たな」
「面倒だったんだ・・・・。別にいいだろ、これでも、今日はどこにも出かける用事はないし」
「駄目だ。ぼくが許さない。ほら、ここに座れ」
ティエリアに促されるまま、ソファーに座っているティエリアの両膝の間に腰を下ろす。ティエリアの白く細い指が慣れた手つきで刹那の髪をすくい、櫛でとかしていく。
「ずいぶん伸びたな・・・・。伸ばし始めてそろそろ二年になるか? 」
「かもしれない。ティエリア、今日も結うだけでいいから」
「駄目だ。せっかく長いのだから、色々試してみよう」
普段どおりでいい、と言い張る刹那を無視して、ティエリアはまずその長い黒髪を左右で結ってみた。俗に言うツインテールだ。
「どうだ?」
「・・・・気に入らない」
鏡で確認させるも、刹那は不満そうに呟いた。それなら、と今度は左右で編み込み、おさげとしてたらしてみた。
「・・・・俺には似合わないだろ」
「・・・・確かに。手元にゴムしかないからなぁ・・・。刹那、今度ヘアピンや髪飾りを買いに行かないか?」
「絶対行かない。頼むから普段どおりにしてくれ・・・・」
渋々と引き下がったティエリアは櫛でとかしながら普段どおりに結う。刹那の髪はくせっ毛で、かなり根性を入れてとかさないと中々まっすぐにはならない。
ティエリアが刹那のくせっ毛と格闘していると、刹那の指がティエリアの髪に触れた。
「ティエリアの髪、さらさらだな」
「羨ましいか?」
冗談で訊いたのだが、刹那が真面目な顔で「ああ」と答えるので言葉に詰まってしまった。まさか、刹那がこの類の事柄に興味を持つとは思わなかった。
「今度」
「?」
大人しく髪を結われている刹那の顔をのぞきこんで、ティエリアは呟いた。
「一緒に刹那専用の櫛でも買いに行くか」
「・・・・行く」