『サンタクロース騒動』
「ねぇ、刹那は今何が欲しいの?」
「俺は・・・・・・」
その答えに、アレルヤは笑顔のまま固まった。
12月24日。俗に言うクリスマス・イブである。
クリスマスとはキリスト教徒がイエス・キリストの誕生を記念する祭りである。アイルランド出身であるロックオンはともかく、中東出身の刹那に幼少期を人革連の研究所で過ごしたアレルヤはキリストという人物すら知らない。聖なる夜も彼らにとってはたたの平日だ。
おまけに刹那は無神論者だ。神の生誕など祝うはずがない。だが、世界中の子供たちが期待を胸に眠りに付くイブの夜くらい、他の子供おと同じように楽しんだっていいのではないだろうか。
深夜、刹那の部屋の前に集まる人影が三つ。
「アレルヤ、例の物の準備はいいか?」
「ここにあります。イアンさんに無理を言って作ってもらった特別製ですよ」
「時間がなかったからどうなることかと思ったが、なかなか良い出来じゃないか」
「よーし、じゃあ手筈どおり俺が中を確認した後にアレルヤが入れ。ティエリア、睡眠薬はちゃんと飲ませたんだよな?」
「ああ、夕食時に刹那の飲み物に混入させておいた。多少の物音では起きないはずだ」
「よーし。・・・・つか、お前睡眠薬とかどうやって手に入れたんだよ」
「黙秘権を使用させてもらう」
「刹那、かわいそうに・・・・・」
「気にしたら負けだ。アレルヤ、中は大丈夫っぽいから行って来い」
「了解」
〜数分後〜
「行ってきました〜」
「ごくろーさん。どうだ? 上手くやったか?」
「部屋の中の物を動かしたりしなかっただろうな?」
「大丈夫です。刹那の部屋あんまり物ないですし」
「よーし、明日の朝が楽しみだな」
次の日、刹那の目覚めはいつもより少し遅かった。なんだが頭がぼぉっとしてスッキリしない。病気だろうか?
ふるふると頭を振った刹那は、枕元に目をやると息を呑んだ。
「刹那遅いですね」
「そうだな。いつもだったらもう起きてくるのに」
「睡眠薬の量を間違えたかもしれないな」
「「ティエリア・・・・・・」」
罪悪感など全く感じていないかのような顔でぽつりと呟いたティエリアを、ロックオンとアレルヤは引きつった顔で見つめる。そのとき、廊下からドタバタと騒がしい音が聞こえ扉が勢いよく開かれた。
「ロックオン、アレルヤ、ティエリア! 俺の枕元に不審な物体が!!」
「「「・・・・・・・・・・」」」
床に投げられた(刹那曰く)不審な物体は、昨夜三人が苦労して刹那の枕元に忍ばせたもの。
「せ、刹那、昨日がどういう日か知ってる?」
「昨日? 普通の平日じゃなかったのか?」
なんとなく、なんとなく彼女は知らないような気がしていたのだけれど。
それでも、せっかくのクリスマスプレゼントを不審な物体扱いされれば傷つくのだ。
「あのね、刹那。昨日はクリスマス・イブって言って、夜中にサンタさんが良い子にプレゼントを持ってきてくれる日なんだ。だからそれは不審な物体じゃなくて、刹那へのクリスマスプレゼントなんだよ」
「サンタ?」
プレゼントが害のないものだとは理解できたらしいが、刹那は「サンタ、サンタ、サンタ、サンタ・・・・って何者だ?」と呟いて首を傾げる。アレルヤだってあまり詳しくない。実際イブの前夜にロックオンに少し教えてもらっただけなのだ。説明に困ってロックオンを見ると、「はいは、バトンタッチなー」とアレルヤを退けた。
「刹那、サンタっていうのはな。サンタクロースって言って、良い子にプレゼントを持ってきてくれるおじいさんだ。刹那がいつもいい子にしているから、刹那にプレゼントをくれたんだ」
「分かった。サンタクロースはクリスマス・イブの夜中に常日頃良い行いをしている子供の部屋に不法侵入し、枕元にその子供が欲する物品を置いて去っていく老人ということだな」
違う! と言い切れないのが悲しい。 間違ってはいない。間違ってはいないのだけれど、なんか嫌だ。
こうして植えつけられた知識は、後に刹那がサンタの存在を疑問視するまで消える事はなかったという。