『生き物は禁止です』








 刹那達が住んでいる町は栄えているわけではないが寂れているわけでもない、都会と田舎を足して二で割ったような町、という評価されている。そんな町から車で一時間も走った、高層ビルが立ち並ぶ、いわゆる都会と言う町のとあるデパートに、刹那達はいた。


 値札とにらめっこしながら商品を選んでいくロックオン、とりあえず自分が気に入った物をぽいぽい買い物カゴへと放り込んでいるティエリア、二つのマフラーを手に「あぁ、ハレルヤ・・・君はどっちが良いと思う?」とぶつぶつ呟いて周りの客から痛い視線を受けているアレルヤ、菓子コーナーから持ってきた駄菓子をこっそり買い物カゴに忍ばせている刹那。


 思わず「団体行動って知っていますか?」と問いかけてみたくなる姿だった。真面目に買い物をしているのはロックオンだけで、残りの三人は完全に私欲に走っている。


 「おーい、三人とも集まれー」


 それでも、ロックオンの一声でバラバラに散っていた三人がちゃんと戻ってくるとこらへん、今までの共同生活の賜物だろう。


 いつのまにか買い物カゴに侵入している、入れた覚えのない商品にロックオンは顔をしかめた。ピンクのカーディガンや眼鏡の曇り止めなどはティエリアだろう。駄菓子など甘いものは刹那の好物だし、二つのマフラーは先ほどまでアレルヤが悩んでいた物だ。後で全て戻しておこう。


 「家電製品が売っているのは二階だったか? 今から移動するから迷子になるなよー。特に刹那」


 「もう子供じゃない」


 「はいはい。アレルヤ、刹那と手繋いどけ。何があっても絶対に離すなよ」


 「分かってますよ」


 前回のような恥ずかしい事件を再び起こすものか、とアレルヤは刹那と繋いでいる手に力を込めた。











今回、刹那たちがわざわざ遠出をしてまでデパートに来たのは理由がある。


 数日前の風邪引きロックオン看病事件の際に戦場と化した台所。包丁は突き刺さっているわ何故か焦げ後が所々にあるわソース類が盛大にこぼれているわその他もろもろ。


 復活したロックオンが片付けたものの、大半の電化製品が被害を受け使い物にならなくなっていた。今回はその買い物に来たのである。


 さすが遠出をしただけはあって、とても充実した品揃えだ。ロックオンは目を輝かせながら電化製品を品定めしていく。


 「アレルヤ、飽きた」


 「そうだね。あっちのほう見てこようか。ティエリア、ちょっと行ってきてもいい?」


 「ああ、いいぞ。迷子にだけはなるなよ」


 喜々として走っていく子供たちを微笑ましげに見送ったティエリアはげんなりとした表情で、未だに電化製品相手にはしゃいでいる男へと視線を戻した。








 「あー買った買った。さすがの品揃えだな」


 「・・・・・そうか」


 たっぷりと時間をかけて選んで満足そうなロックオンとは正反対に、とことん付き合わされたティエリアはいくぶんかやつれた顔をしている。二人の背後に山のように積まれた商品のせいか、二人の周りだけ人が避けて通る。あぁ、視線が痛い。


 「で、ティエリア。アレルヤと刹那は?」


 「あの二人ならその辺りで暇をつぶすと言っていたぞ」


 「おい、また前回みたいな(P17〜20参考)のになるんじゃないか?」


 「大丈夫だ。アレルヤが通信端末を持っている。刹那は通信端末を家においてきたらしい」


 「・・・・・あいつは通信端末の意味を分かってんのか」


 あの年齢でガンダムマイスターに選ばれるくらいだから、当然刹那も物覚えは良い。定期的に渡される学習用ドリルもほとんどが赤丸で埋まるくらいだ。なのに、意図的に忘れようとしているんじゃないかと思うくらい、通信端末などの小さな、だけど忘れてはいけない事柄だけ覚えが悪い。


 必死に刹那に端末の使い方を教え込んだ日々を思い返すとなんだか泣けてくる。ため息をついたティエリアは通信端末を取り出すと、アレルヤを呼び出した。何回かのコール音の後、ガチャと音がした。


 「アレルヤか、今どこにい」


 『・・・・ただ今電波の届かないところにいるか、電源を切っています。こちらは伝言お預かりセンターです。ピーと言う音の後に・・・・』


 端末から聞こえる女性の抑揚のない声に、ティエリアは思わず端末を握る手に力を入れた。ロックオンに目をやると、先ほどの声が聞こえていたのか、額に手を置いて天を仰いでいる。


 「探しに行くか・・・・」


 「そうだな・・・・・・」











 意外なことに探し人は早く見つかった。子供や家族連れでにぎわっているペットコーナでは、子犬を抱えてニコニコと微笑んでいる長身の青年は目立ちすぎるのだ。


 「あ、ロックオン、ティエリア。買い物終わったんですか?」


 「・・・・・・うちはペット飼わないからな」


 「まだ僕何も言ってませんけど!?」


 でも飼いたいんだろ、と尋ねられると是非! と叫んだ。アレルヤは目をキラキラと輝かせながら、いかにマルチーズが愛らしいかを語り始めた。


 「ね、ね、いいでしょう! だってこんなに可愛らしいんですよ!」


 「駄目だ! お前らだけでも手に余るっつーのに、さらに子犬なんか飼えるわけないだろ。諦めろ。ティエリアも反対だろー?」


 「その犬畜生を僕に近づけるな」


 「ひどっ! ティエリアそれはひどい!」


 どうやら動物が嫌いらしいティエリアは、ペットコーナーから遠く離れたところで辛らつな言葉を投げつけた。大人二人の反対にも、アレルヤは諦める様子を見せない。


 「だって刹那も賛成してくれましたよ!」


 「ロックオン、これ欲しい」


 どこにいたのか、ひょっこり現れた刹那の腕の中には可愛らしい子猫の姿が。


 「ね、いいでしょう? 動物の一匹や二匹」


 「・・・・ロックオン」


 「うぅ・・・・」


 ずい、と子供たちに迫られてロックオンは一歩後退る。子猫を抱く刹那はとても可愛らしくて、思わず頷いてしまいそうだ。だが背後からの「動物大っ嫌い」オーラと、飼う事によって自分にかかるだろう負担を思うと、絶対に頷けない。


 こうなったら奥の手だ。


 「・・・・・絶対にちゃんと世話するのか?」


 「します!」


 「・・たぶん」


 「雨の日も雪が降って寒い日もちゃんと散歩に連れて行くのか? 室内で飼うんだったらちゃんとトイレのしつけも出来るのか? そいつらにガンプラとか自分の大切な物壊されても文句言わないな? 病気にかかったらちゃんと病院に連れて行くな? 訓練とかで外泊する時の世話をどうするか考えてあるよな? そもそも、武力介入が始まったらどうするつもりだ?」


 ロックオンの正論攻めにアレルヤと刹那は押し黙った。刹那は『ガンプラとか自分の大切な物壊されても〜』のあたりで顔色が変わった。


 「出来るのか?」


 「「・・・・ごめんなさい」」


 「よし、じゃあそいつら返してきなさい」


 ものすごく名残惜しそうに、抱いた動物を返還していく。アレルヤなんかはまるで今生の別れのようだ。少し罪悪感がわく。








いつだって、大人は汚いんもんなんだ。








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