『無知な子供たち』








 アレルヤ・ハプティズムの朝は隣室の少女を起こすところから始まる。


 ロックオンは朝食作りで忙しいため、必然的に部屋が近いアレルヤにその役目が回ってきた。男ある自分が女の子の寝室に入るのはどうかと思うのだが、こうでもしないと刹那はなかなか目覚めてくれないのだ。


 「刹那ー朝だよー」


 一応ノックはするが、それに対する返答が来ることはないので勝手に入る。もうこの家に来て一年になろうとしているのに、刹那の部屋は最初と同じように全く私物がない。


 「刹那?」


 アレルヤはベットの上のシーツの塊に声をかけた。時折、もぞもぞと動くのだからこの中に刹那がいるのだろう。


 「刹那、朝だよ。早くしないとティエリアに怒られるよ」


 無理矢理シーツをはぎ取ると、中に居たのはやはり刹那だった。だが、アレルヤは硬直した。そして。














 「ロックオン、コーヒーを」


 「おはよー、ティエリア。分かってるって」


 低血圧で寝起きの悪いティエリアは、まだ半分寝ているような顔をしている。ロックオンは苦笑しながらコーヒーを渡すと、ティエリアはミルクも砂糖も入れずに一気に飲み干した。


 「そういえば、アレルヤと刹那は? 姿が見えないが」


 「そーいや今日はやけに遅いな・・・・」


 いつもだったら一番遅くやってくるのはティエリアなのだ。刹那も寝起きが悪いが、アレルヤのおかげでなんら問題はない。


 そのとき、勢いよくドアが開いて顔面蒼白のアレルヤが現れた。


 「ロックオン、ティエリア、刹那がっ! 刹那がっ!」


 その様子に尋常ではない雰囲気を感じ取ったロックオンとティエリアは、すぐさま刹那の部屋へと走り出した。


 「アレルヤ、何があったんだ!?」


 「刹那が大変なんです。顔色が悪くて、動けないくらいお腹が痛いらしくて。あと正確には測っていないんですけど、少し熱があるみたいです」


 「風邪か? それで、刹那は?」


 「今はベットの中です」


 刹那の部屋に向かいながら、アレルヤから話を聞く。そうこうしているうちに、刹那の部屋に着いた。


 「刹那、大丈夫か!?」


 慌ててベットに駆け寄ると、刹那は額に脂汗を浮かべて歯を食いしばっていた。


 ロックオンはその額の汗を拭き、手をあてる。


 「ん〜 確かに熱っぽいな」


 「ぁ・・ロックオン?」


 「僕もいる」


 うっすらと目を開けた刹那はようやく二人の出現に気付いたようだ。痛みを紛らわすかのようにベットの上を転がる。


 「とりえあず熱測ってから病院に行くか」


 ロックオンの妥当な判断に一同が賛成したとき、ふとティエリアが口を開いた。


 「刹那・・・・君は怪我をしているのか?」


 「何の・・話だ?」


 ティエリアが指差す先には、白いシーツに目立つ紅。


 「していない・・・」


 「ではこの血は」


 なんなんだ、と言おうとしてティエリアは固まった。見ればロックオンも同じように固まっているから、彼も思いついたのだろう。


 女性なら、誰でも怒る現象。


 「刹那、お前初めてなのか?」


 「何がだ?」


 その答えに二人は再び硬直した。どうやらこの少女は自分の身体に起きている現象について何一つ知識を持っていないらしい。


 「アレルヤ、病院は行かなくても良くなったぞ・・・」


 「え、何でですか?」


 あぁ、こいつもか!


 無知なお子様二人に年長組は泣きたくなった。


 ひとまず、このお子様たちに知識を与えなくてはならない。


 で、誰が?


 「って、逃げるなティエリア!」


 こっそりとドアのほうへ移動していたティアリアの肩をロックンはがっしりと掴む。


 「お前何俺一人に押し付けようとしてんだ!? てゆーか俺が教えたら完全にセクハラだろコレ」


 「問題ない。すでにセクハラまがいの質問をしていた」


 「うるせー! お前だったら外見女みたいだしそのほうが」


 「黙れ」


 言ってはいけない事実をさらりと口にしたロックオンの顔にティエリアの拳が埋まった。


 「ロックオン・・・あの、僕何がなんだか・・・」


 唖然と事の成り行きを見ていたアレルヤが恐る恐る口を開いた。あぁ、そうだった。こんな事をしている場合ではなかった。


 ロックオンは顔の痛みを感じながら、何かあったら連絡しろと言い残して問題の少女を押し付けていった女傑の名を叫んだ。


 「ミス・スメラギー!!」








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