『与えちゃいけない先入観』
室内に満ちた消毒液の臭いが刹那の鼻を刺した。鼻に感じる痛みが懐かしい。
以前は定期的に訪れていた治療室も、今の暮らしを始めてからは通う回数がめっきり減った。良い事だと、スメラギは笑ってくれた。
今回ここを訪れたのは予防接種を打つためだ。大人組みはすでに打ったらしく、今日はアレルヤと二人で来ていた。
「じゃ、今準備するからちょっと待っててねー」
刹那たちが提出した書類を受け取った女医に促されて、古びたソファーに座った。
「刹那は予防接種初めて?」
アレルヤの問いかけに刹那は無言で頷いた。クルジスにいた頃は、そんな物してくれるほどモラルのある大人はいなかったし、CBに保護されてからも、先端が尖った武器になるような物は、刹那の精神上良くないということで使われなかった。
「僕は打ったことあるけどね。すごく痛かったなぁ」
「・・・・そうなのか?」
「うん。打った直後と針を抜くときが一番痛かった」
そのときの痛みを思い出したのか、アレルヤが身震いする。その様子に、刹那の中ではどんどん不安が膨らんでいった。
(大丈夫。俺はガンダム。俺がガンダム。エクシアエクシアエクシア・・・・・)
最愛の愛器を名を心の中で繰り返し唱える。うら若き乙女の精神安定方法がこれでは悲しすぎる。
「刹那・F・セイエイさーん。一番の番号の部屋の入ってくださーい」
がんばって、とアレルヤからの応援に、刹那は頷くと、覚悟を決めてその扉を開けた。
数分後、涙目になった刹那を必死であやすアレルヤの姿が見られたという。