『邂逅』








 天気は快晴。まさにイベントを行うのにはふさわしい日だ。


 運転席のロックオンの「着いたぞ」の声で、刹那は隣のアレルヤに促されて外に出た。見渡す限り人、人、人の状態に眉を寄せながらも、正面に見える光景を凝視した。


 遠目からでも良く分かる、ユニオン軍所有のMS。一般人に混じってあちこちにいる、ユニオンの青い軍服を着た軍人たち。


 今刹那たちがいるのはユニオン主催のイベント会場だ。なんでも、民間人にMSへの理解と関心を深めてもらうためのイベントだとかで、わざわざ軍からMSを何体も出動させたり、民会の業者に頼んでちょっとした屋台なども出ていたりする。もうちょっとしたお祭りのような感じだ。


 スメラギの『近い将来戦う事になるだろう相手を今からじっくり観察しておくのも、訓練の一つよ』という言葉と、MSが見れるということで二つ返事で了解した刹那だが、ここまで人が来ているとは思ってもみなかった。正直、帰りたい。


 「にぎわってんなー。軍主催のイベントだからどんなもんかと思ってたけど、なんか屋台まであるし。パンフまで配ってるし」


 「楽しそうですね」


 「軍がこんなことをするなど・・・・よほど暇なのか」


 三者三様、各々思う事を口にした後、いつまでも駐車場でたむろっている場合ではないと、行動を開始する。


 「刹那、絶対に1人でどっか行くんじゃないぞ。迷子になったら見つけられないからな」


 「大丈夫だよね、刹那」


 「どうだか・・・・ちゃんとついて来るんだぞ」


 保護者たちの言葉に、刹那は深く頷いた。












 時は流れて数時間後。


 ユニオン軍のMSのチェックも終え、ついでにお祭りも十分楽しんで、そろそろ帰るかと思われたとき。


 事件は起こった。


 「じゃ、そろそろ帰るか。お前ら、忘れ物とかないよな」


 「大丈夫です」


 「やれやれ、やっと帰れるのか」


 右手に先ほど買ったソフトクリーム、左手には屋台での戦利品、存分に遊んだ感たっぷりのアレルヤと、周りの喧騒に少々うんざりしていたティエリアを確認して、ロックオンはふと違和感に気付いた。


 「あれ? アレルヤ、刹那は?」


 「え、ティエリアの横にいないですか?」


 「僕はロックオンが連れていると思ったが」


 「「「・・・・・・・」」」


 お約束道理の展開に、三人は泣きたくなった。












 今まさに保護者たちがいない、ということに気付いた刹那は? と言うと。


 皆とはずいぶん離れた場所でのんきにソフトクリームを食べていたりする。


 歩きながら食べているものだから、当然、視線の先にはソフトクリームしかなく、自分の先頭を歩いているはずの三人がいないということにも気付かない。


 「うわっ」


 「失礼」


 前方注意で、刹那は前から歩いてきた人とぶつかってしまった。転んでしまったまずみで、ソフトクリームは地面へと落下し、見るも無残な姿に。


 「あ、グラハム気をつけなよ。君、大丈夫かい?」


 ぶつかった男の知り合いらしい、なんとも愉快な髪形をした男が声をかけてきたが、刹那はソフトクリームの無残な姿に呆然としている。


 「俺の・・・俺のソフトクリームが・・・・」


 「えっと、君怪我なかった?」


 「俺の・・・・・・」


 「すまない、私としたことが・・・」


 「ソフトクリーム・・・・」


 「「・・・・・・・」」









 結局、責任を感じたグラハムがソフトクリームを弁償すると、刹那は大人しく話を聞いてくれるようになった。


 「君、お家の人と来たのかい?」


 首を振る刹那。


 「え、じゃぁ保護者のひとは?」


 「ロックオンたちならあそこに・・・」


 そこでようやく辺りを見回した刹那は、三人がいないことに気付いた。


 「ロックオンたちが迷子だ・・・」


 「いや、迷子なのは君のほうじゃ・・・」


 「どうする、カタギリ?」


 隣で缶コーヒーを飲んでいたグラハムが尋ねる。どうするもこうするも、迷子となれば行く所は一つしかない。


 「とりあえず、迷子センターに連れて行こうか」


 「そうだな」
















 「どうだ、そっちにいたか?」


 「駄目です。刹那、通信端末を家に置き忘れてきたみたいで」


 「携帯しないと意味がないだろう、それは」


 会場内を走り回ったため、三人の額には汗が浮いている。あれから別れて刹那を探しているのだが、一向に見つからない。


 「こうなったらアナウンスで呼び出してもらうか」


 「そうですね。あれってすごく恥ずかしいですけど」


 「まったく、12歳にもなって迷子で呼び出されるとは・・・情けない」


 苦笑いしながら、迷子センターに行ってみようと三人が歩き出した時、近くのスピーカーから事務的なピンポンパンポーンという音楽が聞こえた。


 『迷子のお呼び出しをします。×××からお越しのロックオン・ストラトスくん、ティエリア・アーデくん、アレルヤ・ハプティズムくん。お連れ様がお待ちです。至急中央迷子センターまでお越しください。』


 「「「誰が迷子だ!!」」」


 恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。しかもアナウンスは三人の外見的特長まで言っちゃってくれるもんだから、周りの人からの「あれ、あの人達そうじゃない? あんなに大きいのに迷子なの?」 「きっとはしゃぎすぎたんでしょ。やーね」みたいな視線が突き刺さって痛い。


 こんな羞恥にぶちキレるお方が1人。


 「・・・・刹那」


 隣で赤面していたロックオンとアレルヤは、その地獄のそこから響いてくるような声に羞恥心も吹っ飛んだと言う。











 迷子センターの係りの女性にもらったジュースを飲みながら、刹那は大人しく三人の到着を待っていた。傍らには、アナウンスの手配をしてくれたビリーとグラハムがいる。


 「今呼んでもらってるからね。きっとすぐ来るよ。というか、迷子なのはやっぱり君のほうじゃ・・・」


 時々話しかけているビリーに適当に相槌を打っていると、窓の外を眺めていたグラハムが「あれじゃないのかい?」と刹那に声をかけた。見れば、走ってくる人影が。


 ぴょこん、と座っていたイスから飛び降りた刹那は走ってくる人影に手を振ろうとして・・・・・硬直した。


 「刹那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 その美貌を悪鬼のごとく歪ませ、どす黒いオーラを背負って走ってくるのは、まぎれもないティエリア・アーデその人で。


 見た瞬間、刹那の脳内では【ティエリアが怒ってる】=【正座させられる】=【正座は嫌だ】=【逃げろ】という式が構成され、刹那は脱兎のごとく逃げ出した。


 「待て、刹那! あれほど迷子にはなるなと言ったはずにも関わらずこの体たらく! しかもあの恥ずかしいアナウンスまで! 万死に値する!」


 「ティエリア待てって! 刹那が怯えてんだろ! 刹那も止まれー!」


 「あ、ちょっと、二人とも待ってくださいよ!」


 刹那を追いかけていった二人の後を追おうとしたアレルヤだったか、この光景をポカーンとした表情で見つめているグラハムとビリーに気付き、「刹那の面倒見てくださってありがとうございました!」と律儀の礼をした。


 「あ、いいんだよ。、別に。元は彼がぶつかったお詫びもあったし」


 「でも本当にありがとうございました。って、あぁ、追いかけないと!」


 かなり距離を離されたアレルヤが慌てて走り出したところに、ビリーの苦笑が含まれた声がかかった。


 「君たち、家族か何かかい?」


 「そんな感じです!」


 その答えを返せた事に、アレルヤは思いっきり笑った。








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