『七月七日』








 ロックオンが仕入れてきた情報によると今夜は七夕なのだとか。なぜ東の小さな島国の伝統行事をロックオンが知っていたのか、刹那としてはその情報源と気が付いたらリビングに飾られていた笹の出所のほうが知りたい。


 ロックオンも詳しい内容はしならなかったのか、「とりあえず紙に願い事かいて吊る下げとけ」なんてけっこういいかげんな事を言って皆のやる気を著しく下げてはいたが、そこは博識なティエリアのおかげで全員が七夕の概念を理解する事が出来た。


 とにかく、願い事だ。


 刹那はあの戦争以来、なにかに祈ることを止めた。クルジスの大人たちが唱えていた『神』にも、この七夕の主催者であるらしい『織姫』と『彦星』とやらにも、自分の望みをかなえてくれる保証なんてないのだ。


 だが、嬉々として薄っぺらい紙に自分の願い事を書いているアレルヤや、楽しそうにさらさらと適当に書いているロックオン、無表情で唸りながら何を書くか悩んでいるティエリアを見ていると、不思議と、神だの何だのに言っていた自分が馬鹿らしくなってくる。


 「あ、刹那ー出来たー?」


 この世界に、神はいないけれど。


 誰も救ってはくれないけれど。


 「今、持って行く」


 願うことくらいなら、してもいいと思った。













 「さーて、完成完成っと。お、これ刹那のか」


 「ええ。1人で書いていたから、何をお願いしたのか知りませんけど」


 「えーと、何々・・・・『ガンダム』」


 「は?」


 「いや・・・なんか紙の真ん中に大きくガンダムって書いてあるんだ」


 「・・・・刹那に七夕の説明しましたよね?」


 「ああ。あいつも頷いていたしな」


 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 「なんか俺頭痛がしてきた」


 「僕もです」


 「次だ、次」


 「あ、ティエリアのありましたよー」


 「お、そうか。えーと・・・『ヴェーダ』」


 「は?」


 「いや・・・紙の真ん中に筆でヴェーダって書いてる」


 「七夕の説明をしたのって、ティエリアでしたよね?」


 「ああ。また本で読んだとか言ってたな」


 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 「こいつらに期待するのは止めるか」


 「・・・・そうですね」


 「そーゆーアレルヤは何書いたんだよ。うりゃっ」


 「あ、ロックオン!」


 「何々・・・『マルチーズが飼いたい』」


 「いいでしょう! 可愛いですし、宇宙空間でも飼えるかスメラギさんに提案中なんですけど」


 「諦めろ、アレルヤ。うちじゃペット飼わないからな」


 「えー! どうしてですか!?」


 「これ以上騒がしいのはごめんだ」


 「ロックオンの願い事、『平穏が欲しい』でしたよね」


 「・・・ああ」


 「一番叶いそうにありませんね」


 「ほっとけー!」








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