長年の片想いが実を結んで、僕に可愛い恋人が出来たのは一週間前のこと。


 なけなしの勇気を振り絞って告白した僕に、刹那はきょとんとした顔で数秒黙り込んだ後、『俺も、アレルヤのこと、好きなんだと思う』と言ってくれた。


 ものすごく嬉しかったから、思わずその場で飛び上がってしまった。


 刹那が不思議そうな目で僕を見ていたけど。








 あれから、一週間が過ぎて。


 僕らはというと、キスどころか手をつなぐことすらいまだ成し遂げていない状況で。


 だって・・・・相手は刹那だ。ロックオンが頭を撫でようとして、「俺に触れるな!!」って手をはたかれたのを僕は何度も見ている。


 そんな、人との接触を過度に嫌う彼女に触れることはどうしてもためらう。


 でも、僕だって健全な男だ。恋人がいるのに・・・・・・この状況は本当に辛い。


 『だったら押し倒しちまえよ、アレルヤ』


 な、なななななななんて事言うんだ、ハレルヤ!!


 『お前、溜め込むと病気になるんだぞ。大体いい歳して何やってんだ? 純情ぶってる場合じゃねーだろ』


 好きで純情ぶってるんじゃない!! 僕だってこの一週間がんばってみたんだよ!!


 『刹那の部屋に入ろうとして一時間も部屋の前でうろうろしたり、刹那の頭を撫でようとくせに、いざとなったらためらいまくって、結局頭の上で手が止まったまま硬直したことが、か?』


 うぅ・・・・・あれは、その、心の準備が出来てなかったって言うか・・・・


 『・・・・・お前、そんなんじゃ発展するもんも進まねぇよ。ぐだぐだ考えるよりも行動したほうが良いだろ』


 ・・・・・行動かぁ。


 ひさしぶりの休日。


 ハレルヤにアドバイスを受け、とりあえす僕もこのままじゃいけないと思って行動に出た。


 一日をトレーニング・ルームで過ごすつもりだったらしい刹那をなんとか説得して、ひさしぶりに地球へ降りた。


 「刹那、どこか行きたい場所とかある?」


 「・・・・・新しいマフラーが欲しい」


 数秒間考え込んだ後、ぼそっと言う刹那。確かに、今刹那がしているマフラーは所々擦り切れていて、さすがにそろそろ買い換えるべきだ。


 とりあえず僕らは大型百貨店に向かった。ここなら色々な種類のマフラーがあるだろうし、お店もたくさんあるから見て回るのに不自由しない。


 「刹那、決まった?」


 「これが良い」


 そう言って刹那が手に取ったのは、今しているマフラーと全く同じ赤いマフラー。


 ・・・・・・・・色を変えるとか、違うデザインのものにしてみるとか、考えないのかな。


 そう思ったけど、刹那はそれが良いらしいから買った。たぶんだけど、刹那の表情が緩んだ気がする。





 あまりにも楽しいから、地上に降りた理由を忘れてしまった。


 目的は【刹那との距離を縮める】こと。


 ・・・・うん、やっぱりキスなんてまだ無理なんで、手をつなぐぐらいで良いよね。


 『良いわけねーだろっ!!』


 び、びっくりした・・・・。ハレルヤ、心臓に悪いから、突然大きな声で叫ぶの止めてくれない?


 『ガキのデートじゃねぇんだぞっ!! 買い物して終わりで済ます気か、テメェはっ!! 押し倒すは無理だろうが、キスぐらいはしちまえよ』


 「!?」


 「アレルヤ?」


 「あ、いや、なんでもないよ、刹那・・・・・」


 アハハと乾いた笑い方をしてごまかす僕。ハレルヤが変なことを言うから、刹那を意識しちゃうよ・・・・


 僕の歩幅に合わせて隣を歩く刹那。首にはさっき買ったばかりの新品のマフラーを巻いている。


 改めて見ると、やっぱり刹那は女の子だ。


 身体も小さくて細くて、思いっきり抱きしめたら簡単に折れてしまいそう。


 そんな身体で戦場を駆けている。男の僕らと同じように、ガンダムに乗って。女としての幸せすら、放り投げて。


 「あ・・・・雪」


 「うわ、いつの間に」


 百貨店から出た僕らに、はらはらと雪が降り積もる。


 僕は、寒そうに手に息を吐きつける刹那を見て、なけなしの勇気を振り絞った。


 「せ、刹那」


 「何だ?」


 「手、つないでもいい?」


 「いいぞ」


 そぉっと触れた刹那の手は、思ったより暖かかった。


 そのぬくもりを感じて、僕はただ幸せだった。


 「次どこ行こうか?」


 「アレルヤが行きたい所でいい」






 白く染まりつつある道を、僕らは歩く。


 手をつないで、二人で。










 いつの日か、彼女に女性としての幸せを与えて上げられますように