ティエリアが変態極まる思考を持っていたことに俺が気付いたのは、付き合い始めてから一週間程経った頃だった。情事前に着てみてくれないか、とメイド服とやらを渡された時は、恋人にする奴を間違えたのかと本気で悩んだ。


 おそらく俺だけが知っているだろう(他に知っている奴がいたらそれはそれで嫌だ)ティエリアの性癖。別に他人の趣向をとやかく言うつもりはない。問題なのは、


 その趣味の矛先を、俺に向けてくることだ。














 「・・・・・なんだこれは」


 俺は自分の頭についている白いふわふわした長い物体を指差して尋ねた。先ほど嬉しそうなティエリアにつけられたものだ。その形状はとある動物を彷彿とさせたが、とにかく持ってきた本人に尋ねてみた。


 「兎の耳だ」


 「・・・・・・」


 俺の頭の上でぴょこぴょこと揺れる兎の耳を満足そうに見つけるティエリア。なぜこいつは満足そうな顔をしているのだろう。そしてなぜこいつの頭にも兎の耳がついているのだろう。


 「君には猫のほうが似合うと思ったが・・・・兎でも問題ないな」


 何の問題なんだ。俺にとっては問題大有りだ。なぜこんな格好をしなければならないのだろう。何の拷問だ、これは。


 俺が黙っている(何かを言ったってこの状況が変わることはないだろうから)のをいいことに、ティエリアは俺を後ろから抱きしめた。


 「今日一日、君は僕の傍にいなくてはならない」


 「・・・・なぜ?」


 「兎は寂しいと死んでしまうからな」


 そのまま死んでしまえ。大体それは迷信で、現実の兎は神経質な生き物のはずだ。俺はなんとかティエリアの腕から抜け出すと、頭の耳を取ろうと試みた。ティエリアに止められたけど。


 「それ、迷信だろ」


 「そうか。ではもう一つ、兎の特性を知っているか?」


 ティエリアがニヤリと笑った。俺はものすごく嫌な予感がしたので、耳を取るのも忘れてティエリアから離れた。この顔は、駄目だ。俺の頭の中で警報がガンガン鳴っている。


 「兎は、な」


 女性らしい美貌とは正反対の、低い声。うっかり逃げ遅れてしまった俺の手を引いて胸に抱き寄せると、ティエリアはその声で囁いた。


 「性欲が強い」


 あ、終わったな、俺。


 くすり、と微笑んだティリアは硬直している俺を抱き上げると、寝室へ歩き始めた。ここまでくると、どんなに抵抗したってティエリアが俺を放すことがないということを、この一週間で嫌というほど学んだ。あぁ、唯一の救いは明日ミッションがないということか。


 寝室の扉が閉まる音が、やけに大きく聞こえた。





 に関する迷信




 予想どおりと言うか、次の日俺は使い物にならなかった。














 お題はas far as I know さんよりお借りしました。