痛いくらい突き刺さる視線から、相手の感情が良く分かった。というか、こうなる事を予測したうえで、あのような行動をとったのだ。


 だから、唐突に部屋に呼ばれ、銃を突きつけられた時も、酷く冷静でいられた。


 「刹那・F・セイエイ」


 真っ暗な部屋の中、月明かりに照らされいるティエリアの顔は、女であるはずの自分よりもよっぽど美しい。だけど、自分の名を呼ぶ声は男の物で、酷く違和感を覚えた。


 「・・・・・俺を殺すのは、お前じゃない」


 黒光りする銃口を見つめながら、ぼんやりとそんな事を考えていたら、ふと、口からそんな言葉が出た。失態だ、と自分でも思う。そんな事を言えば、相手の怒りは増すだけなのだから。


 「殺させるものか! 刹那・F・セイエイ、君は僕の物のはずだ! その命でさえ!」


 「だけど、俺はお前のためには死ねない」


 殴られるな、と思った。だけど、痛いくらいに手首をつかまれて視界が動いたとき、刹那が感じたのは暖かい体温だった。


 抱きしめられて、ティエリアの顔がとても近くにあって、そこで初めて刹那は感情を顔に出した。驚いた顔をした。


 「殺さないのか?」


 「君は死にたいのか?」


 死にたくはない。まだやるべきことは山のように残っている。だけど、全てが終わった後ならば。


 「・・・・・ロックオンに償わないといけない」


 「死ぬ事が贖罪だとでも言うのか!?」


 馬鹿げている、と言わんばかりの口調に、刹那は反論できなかった。たしかに、愚かな考えなのだろう。それでも、刹那はしなくてはないらない。


 「殺されることが、俺の贖罪なんだ」


 「殺させるものか! 例えロックオンだろうと、君は誰にも渡さない!」


 背中に回された腕の力からティエリアの思いが伝わってきそうで、刹那は酷く困惑した。戸惑ったけれども、その熱は、嫌ではなかった。









 死にたくない、と叫んでも、己の罪は消えることはない。


 あの男が自分を殺す事は、どういう結果をもたらすであろうと、あの男に対する償いになるだろう。だから、自分はそれを受け入れる。


 ただ。


 その時までどうか、この、強いくせに弱い、矛盾の衣で己を守っている彼との関係を。


 壊さないで。