「と、いうことでどうだね、刹那?」


 「何がそうゆうことなのか俺にはサッパリ分からないのですが、店長、とりあえず仕事の邪魔です。すみやかにこの世から消えてください。


 刹那は、いつもどおりバイトの邪魔をしに来たとしか思えないグラハムに冷たい視線を送った。その視線をものともせず、グラハムは手に持ったチケットを振る。


 「伝手で手に入れたものだ。新しくできたウォーターパークの一日フリーパス券だ。さあ、行こう! 今すぐいごふっ!!」


 刹那の見事な膝蹴りがグラハムの顔面にめり込んだ。グラハムが倒れるのと同時にカタギリがやってきて、少し困ったながらも笑顔でグラハムを引きずっていく。


 いつもの光景だった。そう、いつもの。


 「ごめんね、刹那君。あ、コレお詫びに上げるよ」


 そう手渡されたのは、先ほどグラハムが大切そうに持っていたウォーターパークのチケット。


 特に断る理由もなかったので、刹那は「ありがとうございます」それを受け取った。











 「で、行くのか、それ?」


 時間は飛んで夜。


 酒を片手に一杯やっているロックオンとハレルヤ、犬猫のカタログを目をキラキラさせて眺めていたアレルヤ、刹那に新しい料理のレシピを伝授していたティエリアと熱心に講義を聴いている刹那・・・・といういつもの面々が集まってわいわいやっていた時。


 刹那がなんとなく話した昼間の出来事と出したチケットに、ロックオンが反応した。


 否、ロックオンだけではない。皆、自分が行っていたことをいったん止め、刹那を見た。


 「もらった物だしな・・・・休みの日にでも行こうかと思っていたが」


 「「「「誰と?」」」」


 ずい、と迫ってきた四人の迫力に押され、刹那は少し後ずさった。


 「刹那、こーゆー時はいつもお世話になってる人を誘うもんなんだぞ。ってことで俺と行こう」


 「あなたはお世話になっていると言うかお世話している人でしょう! 刹那、あんなバカはその辺に埋めておいて僕と行こう」


 「アレルヤ、抜け駆けすんじゃねぇっ!! お前が行くんだったら俺が!!」


 「黙れ、この歩く猥褻物が!! 刹那、こんな常識のない奴らとは行く必要はない!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す四人をぽかーんとした表情で見つめながら、刹那は改めてカダギリにもらったチケットを見た。


 そして、気付いた。


 「これ、一枚で三人まで入れるぞ」


 「「「「え?」」」」











 天気は晴天。まさにプール日和という日だった。


 「おー結構設備整ってんじゃん!! 俺あの波のプールっての行ってみてぇんだけど」


 「ロックオン静かにしてください。恥ずかしいですから」


 「全くだ。これだから常識のないやつは困る」


 「そーゆーお前はなんでプール入るのに眼鏡かけてんだよ。今時度入りのゴーグルとかあるだろ」


 弁当やら水筒やらビーチボールやを持った水着姿の男四人は相変わらずぎゃあぎゃあ騒いでいる。ちなみに刹那は更衣室へと着替えにって不在だ。


 「・・・何やってんだ?」


 水着に着替えてきた刹那は開口一番そう訊いた。ちなみに水着はスメラギ・李・ノリエガの見立てで、胸元にこれでもかとフリルが付けられた真っ白なセパレート型の水着だ。肩につくかつかないか、という長さの髪は左右でおそろいの白いリボンで可愛らしく結ばれている。手にやや大きめの浮き輪を抱えたその姿は、庇護欲とそそられるほどの幼さを出しながらも、女性になる前の少女の可憐さもかもし出していた。


 「あれ? なんか俺たちのときと違って説明に気合入ってね?」


 「仕方がないだろう。管理人はむさ苦しい男共の水着姿を詳しく書きたくないそうだ」


 「男嫌いのくせにBL小説なんて書くからこーゆー時困るんだ」




















 とりあえず、どれから乗ろうということを話し合うことにした。


 ロックオンはひたすら波のプールに行きたがり、ティエリアと刹那はどれでもいいとやる気なさげなことを言い、ハレルヤは今にでも流れるプールに飛び込んでしまいそうだし、アレルヤは競技用プールのほうをじぃっと見ていた。


 パークの地図を広げ、討論を繰り広げていると・・・・・変態がやって来た。


 「フハハハハハ!! こんなところで出会えるとは、やはりおとめ座の私としてはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないよ!!」


 「「あ、店長」」


 「なんだ、あの変態は」


 「ほら、このチケットの持ち主で、刹那とロックオンのバイト先の店長さん」


 「別名が《愛の戦士》(ストーカー)だけどな」


 北国のブリザードにも負けず劣らない冷たい反応さえもものともせず、グラハムはなぜか刹那の手をとった。


 「さあ、ハニー。私と一緒に二人用スライダーで愛を確かめ合おう」


 「っ!?」


 目を輝かせて語るグラハムとは対照的に、手をつかまれた刹那は顔を引きつらせた。


 「「「「変態が刹那に触るな!!」」」」


 「ぐぎゃっ」


 四人の見事な連係プレーによりすっ飛ぶグラハム。巻き込まれる前に刹那はしっかりと手を振り払っておいた。


 「あーごめんね、刹那君」


 「副店長・・・・・」


 困り顔で現れたカタギリを見て、この人も大変だなぁと刹那は思った。


 「つか、店長なんでこんなときにいるんだ!!」


 「ふっ、刹那のいる所が私のいる所だ」


 「つまり、刹那がチケットを使ってやって来るまで毎日通っていたと」


 「うわ、マジでストーカーじゃねぇか!! 犯罪だろ、ソレ」


 「110番に電話したら連れて行ってくれるかな?」


 目の前で行われている騒動を無視して、刹那は地図を眺めた。そして、とある場所に目を留める。


 「副店長、これって」


 「え? あ、うん、そうだよ」


 「ありがとうざいます。あ、後あれが終わったら後始末お願いします」


 「まかせといて。じゃ、楽しんできなよ」


 笑顔でにこやかに手を振るカタギリにペコリと頭を下げると、相変わらず乱闘まがいのことを繰り広げている集団の中から、アレルヤとハレルヤだけ連れ出した。


 「せ、刹那?」


 「このウォータースライダー、三人でも乗れるらしい。一緒に乗ろう」


 「じゃ、俺刹那の後ろで」


 「ずるいよハレルヤっ」


 にぎやかな二人の間で、刹那はやわらかく微笑んだ。


 結局、刹那を真ん中に前アレルヤ、後ろハレルヤとなった。








 その日、プール監視員は、楽しそうにはしゃぐ仲の良い三人組みを見かけたという。