***注意***
ここから先には、死ネタ、グロテクスな表現等が多少含まれています。
ライル、アニューのキャラも別人です。
苦手な方は閲覧しないようにしてください。
また、読んだあと気分を害されても当方は責任を負えないことをご了承ください。
それでも大丈夫、という方はスクロールしてお読みください。
アニューが指を動かすたびに、はらり、はらりとハナズオウの花弁が散る。足を動かせば、紅紫の花弁が舞う。その光景にアニューは目を細めて、軽くタップを踏んだ。まるで憧れの舞踏会へと行くのを心待ちにする、乙女のように。
背後でかつん、と誰かの足音が聞こえた。待ちわびたその音に、アニューは喜悦を胸に振り返った。
「せつ」
「残念だったな、刹那は来ねぇよ」
「・・・・ライル・ディランディ」
薄く笑うライルをアニューは鬼のような形相で睨みつける。手にしていたハナズオウを投げ捨て、懐から拳銃を取り出した。
「よくここが分かりましたね」
「まぁな。へぇ、ここが噂のイノベイターの隠れ家、か。いいところじゃん」
「お褒めに頂きどうも光栄です。でも私がここに招待したのはあなたではありません。招かざる客はとっととご退場願います」
「手厳しいねぇ。だからさっきも言ったろ。刹那は来ねぇよ。来させるわけねぇだろ、アンタを殺させるためなんかにさ」
ライルが吐き捨てた台詞に、アニューは舌打ちを漏らした。秘密裏に進めていた計画。この男はどこまで気付いているのか。
「悪趣味だな。わざわざ刹那に殺されて、それで刹那の中に残ろうってか」
「ええ、彼は優しいですから。きっと一生覚えていてくれるでしょうね」
そう、刹那は優しい。優しすぎる。いくらアニューが裏切り者とはいえ、自分の手でアニューを殺せば、きっと彼は嘆き悲しみ、深い後悔に襲われる。その心にはアニューしか残らなくなる。それでいい。彼の中に残れるのなら、それがどんな形であっても構わない。彼の心に深く刻み付けて、絶対に忘れられないようにしたい。
その為に死が必要だというのなら、喜んで彼に殺されよう。
「気に入らねぇな」
「そうですか? 私にとってはこれ以上ないくらい素晴らしい演出ですよ」
「演出? 確かに最高の喜劇だぜ。この花」
ライルは床に散乱しているハナズオウの花弁を手に取った。
「ハナズオウ・・・・花言葉は『裏切り』。アンタにぴったりだな」
「それはあなたもでしょう? カタロン構成員、ジーン1。CBの情報をこっそりカタロンに流していたくせに」
「あ、ばれてた? しょせん、俺たちは同じ穴の狢ってか」
「そうですね。まぁ、仲良くする気なんてこれっぽっちもありませんけど」
かちゃり、とアニューは拳銃の撃鉄を引き起こした。アニューの銃は一般的な回転式拳銃で、装弾が少ない事や弾頭の再装填に時間がかかる事など不安も残るが、丸腰の相手では大丈夫だろう。死体はそこの窓から投げ捨てておけばいい。
「私、まだやらないときけないことがあるので、あなたなんかに構っている時間はないんです」
だから、さっさと死んでください。そう言われることすら予想していたのか、ライルは薄笑いを引っ込めない。銃を突きつけられてもなお反撃のそぶりすら見せないライルをアニューは不審に思ったが、頭を振ると引き金にかけた指に力を入れた、その時。
「ライルっ! アニュー!?」
「刹那っ!?」
突然、刹那が飛び込んでアニューは混乱した。彼は来ないはず、なのになぜ? その疑問にアニューが硬直した。それが彼女の運命を決めた。
パァン、とあまりにも軽い、そして重すぎる音がした。命を奪う音が。
「・・・・・え?」
胸が熱くなり、喉から声と共に鮮血が漏れた。目線を下げれば、黒ずんだ穴と鮮やかな赤に染まっている胸元が見える。
足を動かそうとするが、思うように動かない。一歩前に踏み出したはずなのに、気付けばアニューの身体は背後へ傾き、宙へと落下していた。
世界が反転する、そんな中見えた光景にアニューは驚愕に目を見開いた。
青ざめた顔をして、その場にへたり込んでいる刹那。その赤褐色の瞳はなにか恐ろしい物でも見ているかのようだ。そして、その刹那の肩を抱いているライルと彼の手に握られている硝煙を上げる拳銃。
彼は笑っていた。
「あ・・の、男・・・」
やっとアニューは知った。何もかも彼の思うがままだった事を。自分を撃ったのが、刹那ではなくライルだった事を。自分が失敗した事を。
叫びたかった。たかが人間に邪魔された事を怨む呪詛を。だが悪態を喚き散らす時間すら与えられる事なく、アニューは堕ちた。
自分の脳髄がつぶれる音が、やけに大きく聞こえた。
ぐちゃり、と気味の悪い音が聞こえた瞬間、刹那が身体を震わせるのが分かった。ようやく邪魔者が死んだ事に湧き上がる笑みを押し殺し、ライルは沈痛な面持ちを装って刹那を抱きしめた。
「刹那、大丈夫か?」
「あ・・・ライル。アニューが、アニューが・・・」
刹那の瞳から、涙がぽろぽろと零れ落ちる。ライルはその涙をすくい取り、さらに強く刹那を抱きしめた。
「わりぃ、俺、刹那が危ないと思ったら、思わず・・・・」
「・・いや、ライルは悪くない・・・・ありがとう」
「刹那・・・・」
拭っても拭っても刹那の瞳からは涙が溢れ、ライルは内心で舌打ちをした。あんな女のためなんかに、刹那が泣く必要はない。だけど彼は優しすぎるくらい優しいから。ライルは刹那の目じりを舌で舐め上げた。
「刹那、刹那の敵は全部俺が引き受ける。怨みも憎しみも、全部俺が背負う」
「ライ、ル・・・・」
「刹那の全てを俺が背負ってあげるよ、だから」
もう何も考えなくていい。そう囁くと、何かを紡ぎかけた刹那の唇を自分のそれで塞いだ。もう、何も言えないように。
手折られた華
しろくま様より、『ライ刹+アニュ刹でダークシリアス』でした。
・・・・・やりすぎました。ライル、アニューファンの皆様、すみませんでした。
これで本当に気分を害された方がいたらどうしよう・・・・・とか思いつつ、頂いたネタに萌えて暴走した結果がこれです。
超楽しかったです(笑顔