真っ白だった。壁紙も、窓を覆うカーテンも、唯一存在する家具であるベッドも、その上に横たわる少年の衣服も、彼の足首に巻きつけられた鎖も。
白は清らかさや純潔の象徴とよく言われるが、ここまで完璧に白いと、もはやそこは死人のための部屋のようだった。腐りゆくだけの、哀れな遺体が安置された部屋。しかし、ここにいるのはまぎれもない生者だ。
「また少し痩せたか?」
現れた青年も、濃い紫色をした髪と血のような紅い瞳を除けば、肌も衣服も真っ白だった。
「ちゃんと食事は取っているのだから、これ以上痩せようはないのにな。そのうち、翼が生えて飛べるようになるんじゃないのか?」
青年はくつくつと笑う。少年は眠たそうに欠伸をすると、片手で手招いて青年を呼んだ。
「今日はずいぶんと早かったな」
「ミッションがなかったんだ。本当はもっと早く来れるはずだったのだが、またスメラギ・李・ノリエガに捕まってしまった。君がいなくなって、もう二週間だ。さすがの彼女もあせりを感じているらしい。もしかしたら、君が死んでしまったのではないか、と」
「変なの。俺はここにいるのに」
「仕方ない。彼女たちは知らないのだから。君がここにいる事も、僕が君をここに連れてきた事も」
「俺が、もうガンダムマイスターじゃない事も?」
赤褐色の瞳を楽しそうに細めて、少年は小首をかしげた。
「ティエリアが、俺のためだけに生きている事も?」
少年の細い指が、青年の頬に触れた。青年は彼の手首を掴むと、指先に口付ける。そのまま、くすぐったげに身をよじった少年の、紅く熟れた唇に吸い付いた。
「ん・・・・」
「・・せつ、な・・・」
くちゅくちゅと、純白を示す部屋には似合わない淫靡な音が響く。ようやく離れた二人の間を伝う銀糸を、青年は愛しそうに見つめた。
「刹那、僕は君のものだ。だから」
耳朶に唇を寄せ、まるで睦言を囁くかのように。
「君も、僕のものだろう?」
背徳セレモニー
(世界なんて関係ないだろう、刹那) (そうだ、俺とアンタさえいればそれでいい)
お題は夜風にまたがるニルバーナさんよりお借りしました。