いくら咎めるような視線を突き刺されようが、刹那には反省の仕様がない。なにせ、今回の事は完全にネーナ・トリニティの独断であり、刹那どころか、兄であるヨハン・トリニティやミハエル・トリニティの意思すら無視した行動であるらしいからだ。


 「刹那・F・セイエイ」


 名を呼ばれ、振り返れば不機嫌そうな・・・・とうか、不機嫌どころかはらわた煮えくり返っています的な表情をした(一応、を付けたくなるような)恋人の姿。あぁ、だから自分に触れるな、と言ったのに。あの女は。


 「刹那・F・セイエイ」


 返事をしなかった為か、ティエリアが再び呼ぶ。あたりに人の気配はなく、刹那はマズイ、と感じた。怒りのあまり普段の冷静さをどこかに捨ててきてしまっているだろうこの男なら、通路で襲う、なんて行為ですら簡単に実行してしまうそうだ。


 「怒っているのか?」


 「当たり前だ」


 そうだろうな、と刹那も思う。刹那だって、恋人が突然他人に唇を奪われたらむかつく。


 チッと苛立たしげに舌打ちされ、刹那はなんだかわけが分からないうちに腕をつかまれて抱き寄せられた。あぁ、犯されるな、という呟きはティエリアの唇に呑まれて消えた。


 「ん・・ぁう・・・」


 情事の最中でしかしないような、深い深いキス。角度を変えて、何度も何度も執拗に。


 「ふぁ・・・ん、ティエ・・リ、ア・・・・」


 まだ慣れないキスに早々に酸欠になった刹那が講義の声を上げるが、それすら無視してさらにキス。


 口内を逃げ惑う刹那の舌を執拗に追いかけて、絡みつくように捕らえる。それでもなお逃げようとするので強く吸うと、刹那の身体ごと、びくんと震えた。


 さすがにそろそろ限界か、としぶしぶ唇を離すと、刹那は長いキスに腰が抜けたのか、真っ赤な顔をしてその場に座り込んでしまった。


 「なんだ、根性がないな」


 「・・うる・・さ・い」


 はぁはぁと肩で息をしている刹那の半開きになった唇に、仕上げとばかりに口付ける。またか、と身構えた刹那の考えとは裏腹に、今度は軽くチュッと音をたてるだけで離れていった。


 「これでいい」


 「?」


 わけが分からない、という顔をしている刹那とは正反対の、満足げな笑みを唇の端に浮かべているティエリアは嬉しそうだ。


 ティエリアの長く白い指が、刹那の唇を丹念に撫でた。


 「ここに触れるのは、僕だけでいい」








 だって、彼女は僕の物なのだから