嗅ぎ慣れないタバコの香りが鼻の奥を刺した。
もそもそとベットから這い出すと、隣では何時の間に着替えたのか、上半身裸の男がタバコを吸っていた。刹那の視線に気付くと、手にしていたタバコを灰皿へと押し付けた。
「なんだ、もう起きたのか? 明日から当分ミッションはないんだろ。まだ寝てりゃいいのに」
「隣で煙たくされては眠れない」
顔をしかめると、ライルは苦笑して「はいはい、俺が悪かった」と言いながら刹那の黒髪を撫でた。その手つきが誰かを彷彿させるもので、不覚にも刹那は目を細めた。
「タバコ、吸うのか?」
「まぁな。刹那は嫌いか?」
「嫌いだ。煙たいし、健康を損なう。あと臭い」
「うわ、言ってくれるね。刹那がそこまで言うんだったら、禁煙してみようかな?」
たぶん冗談だったのだろう。ライルは笑いながら取り出したタバコの箱をゴミ箱に投げようとした。だが、それは刹那がタバコの箱を取り上げた事によって阻止された。
「別に、無理して禁煙しなくていい」
「うわ、刹那が優しいなんて珍しいな。でも俺は刹那が嫌だって言うんなら本当にやめるよ?」
「禁煙されるほうが嫌だ」
そっぽを向いてぼそぼそと刹那が呟くと、ライルは「あーじゃあ無理すんの止めたー」と再びタバコを吸い始める。
こうでもしないと、気でも狂ってしまうそうだ。
顔を仕草も性格さえも、何もかもが気味悪いくらいそっくりな二人。情事中に触れる手つきも同じで、錯覚してしまいそうになる。
だからタバコを吸って欲しい。
鼻を刺すその香りがただよっている限りは、刹那は二人を別けていられる。彼がタバコを愛用している間は、彼を彼だと認識できる。
だけど。
同じ顔の彼が『彼』と同じように接してくるせいで、たまにどうしようもないほど『彼』に会いたくなる。だから『彼』ではないと分かっていながらも、彼とこのような関係を築いた。
それでも、どうしようもないくらい。
「・・・・・・空が見たい」
「え?」
ごろん、とベットで仰向けになりながら、刹那は再度「空が」と呟いた。不意を突かれたライルは、ポカーンとした顔をした後、納得したように頷いた。
「ここんとこずっと宇宙にいたもんな。じゃ、明日一緒に地球へ降りるか。ドライブに連れてってやるよ」
「空が、見れるのなら」
どこだって良いと呟いた刹那は、目を閉じてずいぶんと拝んでいない青空に思いを寄せた。
わたしは時折寂しくなって、空など眺めてみたりするのです
お題はララドールさんよりお借りしました。