傍らで眠る少年の体温を感じながらロックオンは静かに起き上がった。ベットサイドに置いた自分の荷物を漁って取り出したのは、黒光りする拳銃。
しばらくそれを見つめ、やがてふかく息を吐くと拳銃を元の場所へとしまおうとした。
「撃たないのか?」
拳銃を持っていた腕を掴まれてロックオンは硬直した。そうしているうちに、横から伸びてきた腕に拳銃を奪われた。
「・・・・刹那」
「なぁ、俺を殺さないのか? ロックオン」
自らの頭に銃口を当てて、刹那は心底不思議そうに尋ねた。赤褐色の瞳に見つめられて、ロックオンは動く事が出来ない。
うめくように「やめろ」と呟けば、「どうして?」と返ってきた。
刹那が動くたびに身体にかけられていたシーツが滑り落ち、その裸体があらわになる。首筋や胸元に刻まれた所有痕。それをつけたのは紛れもなく自分だ。
「刹那、銃を返せ」
「なぜ俺を殺さない? 俺はお前の仇なのに」
言葉に詰まって、ロックオンは下を向いた。・・・・殺せるわけがない。なのに、彼は自分に殺せという。
「・・・・自殺の片棒を担ぐなんざ、俺はごめんだね」
そう言うと刹那の瞳が揺らいだ。自覚がなかったのだろうか。この行為を自殺と呼ばずに何と呼ぶのだ。
「俺はお前を殺さない。自殺の手助けもしない。分かったらさっさと寝ろ。明日に響くぞ」
感情を理性で押し殺して、ロックオンは勤めて大人らしく振舞った。そうしないと、耐えられそうになかった。
刹那の手から銃を奪って、そのままベットに押し倒した。額に軽くキスを送ると、くすぐったかったのか、顔を背けた。
「・・・・ロックオン」
「なんだ?」
「いつか、そのときが来たら・・・・俺を殺せ」
「しつこいぞ。俺はお前を」
「ロックオンがいいんだ」
諌める声をさえぎって、刹那は言葉を紡いだ。
「俺が死ぬんだったら、ロックオンがいい。ロックオンの手で、俺を殺してくれ」
刹那はロックオンの指先に口付けをした。手袋ごしではない、その肌に。
答えを言う代わりに、ロックオンは刹那の顔へ毛布を押し付けた。刹那も嫌がってもがいていたが、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえた。
「・・・約束する、刹那。いつかそのときが来たら」
だから、それまでは。
「頼むから生き続けてくれ・・・・」
その願いに、答えはなかった。