顔をくすぐる草の感触が心地よくて、刹那は空を眺めていた瞳を閉じた。
「せーつな」
突然顔の上に落ちてきた何か驚いて上半身を起こすと、胸元に落ちた何かは草花で作られた冠だった。隣で先ほどまで何やらごそごそしていたロックオンが作ったのだろう。
「・・・・なんだ、これは」
「お姫様には冠が必要だろー」
誰が姫だ、という言葉は胸の中にしまっておいた。昔だったら投げ捨てていただろうその冠を、そっと頭の上に乗せてみる。
「似合う似合う」
嬉しそうなロックオンの言葉に、思わず刹那の頬も緩んだ。あの頃より髪は伸びたから、確かに冠でもつければ姫に見えるのだろう。
あの頃とが何もかもがちがう。腰まで伸びた己の髪も。少しだけ成長した己の身体も。こうして素直に笑えるようになった事も。
もう、戦いはないのだから。
「・・つな・・せ・・な・・刹那」
身体を揺さぶられて刹那は重たいまぶたを空けた。ぼんやりとした視界に映るのは、こちらをのぞき込んでいる恋人の姿。
「おはよう、刹那」
「ん・・・? ロックオン?」
思考回路追いつかない中で呟いた名に、ロックオンはニッコリ笑って刹那の頭を撫でた。
「今日はミッションが入ってただろ。急がないと遅刻するぜ。珍しいよな、刹那が寝過ごすなんて」
投げられた衣服を受け取りながら、刹那はふと自分の目じりに涙が浮かんでいることに気が付いた。
「・・・・刹那?」
「幸せだった」
ロックオンが怪訝な顔をしながら、未だベットに横たわっている刹那の隣に座った。
「馬鹿みたいに幸せな夢だったのに、なぜ俺は泣いている?」
ロックオンは答えず、刹那の目じりに浮かぶ涙をすくい取った。
「その夢の中に、俺はいた?」
「・・・いた」
「なら、俺は幸せだな」
分からない、という顔をする刹那を抱きしめて、その首筋にキスを落とす。
「刹那と一緒なら、どこだって幸せだよ」
幸せの定義は、人それぞれですから