ソレスタルビーイングの活動は鎮静化してはいたものの、水面下では着々と次の準備が進められていた。
その準備のためだと集められたマイスター達に渡されたのは、各自色は違うものの、ほぼ同じデザインの服。
「せっかくCBを一から作り直したんだし、だったら今度から制服にしてみようと思って」
戦術予報士のスメラギは、酒を片手にあっけらんと笑った。
なにはともあれ、一度試着してみろということで、マイスター達はそれに袖を通すこととなった。
「しっかし、いまさら制服着用って・・・何考えてんだか」
愛用のジャケットを脱ぎながらロックオンがぼやく。彼は二期から弟のライルと交代するはずなのだが・・・・まぁ、気にしない。
「いいじゃないですか。僕はかっこいいと思いますよ、この服」
「そりゃ、アレルヤの私服はアレすぎたから。俺、けっこうこの服に愛着持ってんだけど」
アレルヤはCB一服装に気を使わないので有名だった。刹那は愛用のストールを色違いで使うことで、なんとかその不名誉なカテゴリーに入る事を免れていた。
そのとき、ロックオンがとある提案をした。
「私服着るのも最後だし、全員の服取替えっこしてみないか?」
「あ、面白そうですね」
「だろー。おーい、刹那、ティエリアこっち来い」
素直に寄ってきた二人に説明すると、あらかさまに『どうでもよい』という顔をした。
「二人ともそんな顔すんなって。じゃ、俺の服は刹那が着て、刹那のは誰が着る?」
「体格的に着れる者などいないと思われるのだが」
「ロックオンの服は重ね着がめんどくさそうだ」
「めんどくさいって言うな! お前も少しはファッションに興味持てよ」
なんだかんだで参加する事になったらしいティアリアと刹那。わいわいと盛り上がる三人に、楽しそうに声をかける人物が。
「それで僕のは誰が着るんですか?」
「「「嫌だ」」」
性格もバラバラせ協調性なんて皆無な三人が全く同じタイミングで返した台詞に、アレルヤは泣きたくなった。
「アレルヤの服だけは着たくねぇよ」
「その筋肉を強調した服を着るのだけは絶対に断る」
「・・・・どこで売っていたんだ、そんな服」
あ、泣いても良いですか?
「くじ引きにしましょう! 公平にしましょう!」
アレルヤの必死な提案により、急遽簡単なくじが作られた。
「どうかアレルヤのだけは当たりませんように」
「あの服だけは嫌だ」
「当たった瞬間燃やしてやる」
「ちょ、なんかみんな酷いよー!」
「じゃ、最初は俺からなー」
くじはロックオンがやや強引に年齢順に引くことにさせた。年齢不明のティエリアはアレルヤの次ということにさせておいた。
確立は三分の一。アレルヤのに当たる確立を少なくするために、わざわざ年齢順に引くようにしたのだ。なんとしてでも回避しなければ。
箱の中に手を入れてガサゴソとあさる。手に紙が当たる感触を感じながら、ゆっくりと吟味する。
「これだっ!」
考え抜いた末に手に取った紙を開くと、そこには大きな文字で、
『筋肉』
「ロックオンがアレルヤの服だな」
「あ、ロックオンになったんですかー」
「・・・どんまい」
石化しているロックオンからクジの箱を奪い取って、刹那とティエリアは安堵しながらくじを引いたのだった。
結局。
刹那はティエリアの服を。ティエリアはロックオンの服を。アレルヤは刹那の服を着る事となった。
「ティエリア、なんでピンクなんだ? たしかほかの色もあったはずなのに」
「君にはそれが一番似合うんだ。やはりサイズが大きかったか」
ティエリアのピンクのカーディガンは刹那には大きすぎた。指先が袖口に隠れてしまっているその姿は、とても可愛らしかったが。
サイズといえば、どう考えても無理がある人が1人。
「これ本当に僕が着るの・・・・?」
「仕方ないだろう。くじで決まったんだからな」
「それ、破るなよ」
「ええー」
16歳の刹那の服が、どう考えても20歳のアレルヤに着れるはずもなく。
「とりあえずストールだけでもしていろ」
「そうだね。刹那、ストール借りるよ」
「汚すなよ」
「お前らー俺抜きで盛り上がってんじゃねぇ!」
忘れかけていたロックオンが少し泣きそうになりながら現れた。律儀にもアレルヤの服を着て。
よく似合ってますよ、なんて慰めにならない言葉をかけてくれるのは持ち主であるアレルヤだけ。ほかの二人はひきつった顔で見つめている。
「・・・・ロックオン・ストラトス。目の毒(そのままの意味で)だから視界から消えろ」
「・・・ロックオン。それを着ている間は俺に近づくな」
「せ、刹那〜」
がっくりとうなだれたロックオンに、そこまで嫌われた服の持ち主であるアレルヤも少し傷ついたという。