それに一番最初に気付いたのは、ハレルヤだった。
「ん・・・・朝か」
もぞもぞと起き上がり、違和感に首を傾げる。
隣に誰かが寝ている。別にそれがおかしいことではない。昨晩、夜を共に過ごした刹那だろう。だが、
二人分、あるのだ。誰かが寝ているだろう、シーツのふくらみが。
刹那以外の誰かと寝た覚えはない。ハレルヤは何のためらいもなく、寝ている誰かを見ようとして、毛布を剥ぎ取り、
そこにいた、すやすやと気持ち良さそうに眠る、左眼以外自分と全く同じ顔をした男、アレルヤを見て、
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」
大絶叫。
「起きろアレルヤ!! 何だコレ!? 何で俺がいてお前がいるんだ!?」
「うぅ・・・うるさいな、もう朝? って、何コレ!? 何で僕がいて君がいるのハレルヤ!?」
事情を知らない者が聞いても訳のわからないだろうその叫びから、彼らの混乱っぷりがよく分かる。
その騒ぎで目が覚めた刹那は、言い争うアレルヤとハレルヤを見て、
嬉しそうに顔を輝かせた。
「で、どーゆーことだ、コレは?」
アレルヤに服を借りたハレルヤ(借りたも何も、元々ハレルヤがこちらに出てくる時は、いつもアレルヤの服を着ている)が苦々しげに刹那に訊いた。つられて、アレルヤも刹那を見る。
「なんっでお前はそんなに嬉しそーなんだよ!? てか、お前ぜってー何か知ってるだろ?」
「そうなの、刹那?」
その時、部屋のドアが開き、ティアリアが現れた。
「ふむ、うまくいったようだな、刹那」
「ああ。感謝する、ティエリア」
どうやらこのオカッパ眼鏡様が何かやらかしてくれたらしい。
ハレルヤがキレる前に刹那が説明を始めた。
「俺がティエリアに頼んで、お前らを別々にする薬を作ってもらったんだ。効果はあまり続かないみたいだけどな」
「せいぜいもって一日が限度だな」
「そうか」
あまりにも自然な流れで行われている会話に、アレルヤとハレルヤは泣きたくなった。薬って・・・・・そんな、魔法か何かじゃないんだから。
呆然としていた二人の手を刹那が引っ張った。
「やりたかった事があるんだ。地球へおりよう」
「へっ?」
「なっ?」
ぐいぐいと刹那に引っ張られてされるがままの二人にティエリアが、
「アレルヤ、ハレルヤ。楽しんでこい」
と言葉を投げかけた。聞こえたかは分からない。だが、ティエリアはにぎやかに去っていく三人、その中心で微笑んでいる少女を見て微かに頬を緩ませた。
悔しくない、と言えば嘘になる。
それでも、彼女が笑っていられるのならよしとしよう。
傷だらけの彼女が、選んだ相手と共に。
とりわけ賑わっているわけでもないが、すいているわけでもない中途半端なショッピングモール。
人の目をはばからずにイチャつきオーラを放出しまくるカップルや、ほほえましい仲良し家族などが主な客層のそこで、同じ顔の造りをしながらも正反対の表情をしている男二人と、無愛想を具現化したような美少女(親しい者には彼女が嬉しそうにしていることがわかるだろうが、他者から見れば無表情にしか見えない)はそこそこ浮いていた。
ソレスタルビーイングの中でも特に服装に気を使わない三人だが、刹那を着飾って遊ぶことを娯楽としている女性陣が嬉々としてコーディネートしてくれたおかげで、服装的にはその場の雰囲気に合っていた。
「いきなりこんなトコ連れてきやがって・・・・・・なに考えてんだ、アイツ」
「たまには良いと思うよ。ほら、刹那楽しそうだし」
居心地悪そうに呟くハレルヤをアレルヤがなだめる。
刹那は案内掲示板を眺めながら、先ほど買ったクレープを食べていた。はぐはぐとクレープを咀嚼しながら、行きたい所を選んでいる。
(とりあえず、三人で遊べる所・・・・ゲームセンターとかは・・・・うん、ちょうど良いか)
クレープの最後の一口をゆっくり味わうと、アレルヤとハレルヤの手を引っ張って歩き出す。
「で、今度はどこ行くんだ?」
「ゲームセンター。ハレルヤ、得意だろ?」
「あそこ、見ているだけでも楽しいから良いけど、少しうるさいよね。耳が痛くなってきちゃうし」
「じゃ、アレルヤは他の所行ってろよ。俺は刹那と遊んでくるから」
「なっ!? 抜け駆けはずるいよ、ハレルヤ!!」
言い争う二人の手が、ぎゅぅっと?まれた。
「三人で、遊ぶ」
「うん」
「ああ」
二人の手をしっかりと握りしめる刹那に、アレルヤとハレルヤは頷いた。
三人で行かないと意味がないんだよ。
ごめんね、こんなにも我が侭で。