ぎゅっと抱きしめた恋人の眉間に出現したしわに、アレルヤは酷く動揺した。


 今まで、刹那にこいうった行為を拒まれた事はない。アレルヤの刹那に嫌われるかもしれない、という杞憂ゆえ、刹那に触れるときはとても慎重にしてきたからだ。


 「アレルヤ・・・・」


 「な、何・・・」


 「酒臭い」


 「え?」


 てっきり拒絶の言葉がくると思って身構えていたアレルヤは、拍子抜けした顔で刹那を見つめた。


 「あ、さっきスメラギさんにお酒飲まされたから」


 彼の女性はアレルヤが成人になったと知るや否や、事あるごとにアレルヤに酒を飲ませるのだ。そして自分も楽しむ。


 今日もまた、酔っ払ったスメラギにからまれ、一杯だけ付き合って逃げてきたのだ。


 「刹那、酔っ払ったスメラギさんには近づいちゃ駄目だよ」


 「分かった。・・・酒とはそんなに美味しいものなのか?」


 「あ・・・・いや、それは・・」


 アレルヤとしては、なぜあんな苦い物を好き好んで飲むのか理解できなかった。だが、世の中には甘いお酒というものも存在しているらしい。


 「僕が飲んだのは、すごく苦かったなぁ・・・・」


 「そうなのか?」


 酷く興味深そうに尋ねる刹那に、アレルヤは危険を感じた。同じような質問をスメラギにしたら「だったらあなたも味わってみなさい」と刹那にお酒を飲ませるだろう。彼女はまだ未成年だが、酔ったスメラギの前では年齢など関係ない。


 「うん。すごく苦かったから、刹那は飲んじゃ駄目だからね」


 「・・・・俺は苦いのも平気だ」


 苦い物が嫌いな刹那にお酒への興味を失ってしまうための言葉だったのだが、子ども扱いされる事が嫌いな刹那の性格が、逆の方向へとその効果を発揮させてしまったらしい。


 「や、だけどあれは本当に・・・・」


 「飲めばわかる」


 「駄目だって! 刹那はまだ20歳になってないでしょ!」


 必死になって刹那を説得するアレルヤの顔を、刹那が両手でがし、とつかんだ。


 驚くアレルヤにもお構いなしに、刹那は自分の唇をアレルヤのそれに重ねた。


 石化するアレルヤの口内に刹那が舌を入れた瞬間、刹那は思いっきりアレルヤから離れた。


 「おえ・・・にがっ」


 「せ、刹那・・・・・」








 それ以来、アレルヤは苦味のある酒は飲まなくなったという。