ネーナとルイスが早口でまくしたてた言葉を理解するのに、私は十分間も悩まなくてはならなかった。なにせ、二人同時に喋るくせに、言っている事に事実とは関係ない、完全なる彼女らの私感が大量に混ざっているからだ。でもまぁ、結局言っている事は唯一つ。
「・・・・刹那とロックオンが付き合っているのが、そんなに変なことなの?」
私が心底不思議に思ってそう尋ねると、彼女らは口をそろえて「当たり前じゃない!」と叫んだ。
「だってあの刹那なのよ! 無愛想のかたまりで、恋愛ごとなんてこれぽっちも興味ありませんって顔してて」
「ロックオン先輩は誰にでも優しくて、上級生からも下級生からも人気があって、星の数ほど彼女いそうで」
「「あの二人、正反対じゃない!」」
・・・・・・友達の恋愛をここまで否定する人を、私は今まで見たことがない。私は少し刹那に同情した。
「私はあの二人、お似合いだと思うけどな」
彼女らの話を理解しようと奮闘しているうちに冷めてしまったオレンジペコを一口すする。うん、冷めてしまったけれど美味しい。
「えぇー、フェルト、それ本気?」
「でもフェルトはロックオン先輩の従妹なんだし、私たちにはわからないこと知ってるのかも」
教えてよ、と瞳を輝かせて身を乗り出してくる二人に、私は小さくため息をついた。人の恋路に突っ込むこの癖を直さなければ、いつか二人は馬に蹴られるかもしれない。
だいたい、私がロックオンの従妹でもなくても、きっと同じことを言うだろう。
「だって、あの人たち、全く同じだよ」
私の言葉に、ネーナとルイスは首を傾げる。さて、この二人にどうやって説明したらよいのだろうか。
誰にでも優しいロックオンと、誰にでも無愛想な刹那は、うん、周りから見れば正反対なのだろう。だけど、私が思うに、あの二人はどこまでも同じだ。
誰にでも優しいのは、裏を返せば、誰にでも無愛想な事と同じ事だ。
誰にでも無愛想なのは、裏を返せば、誰にでも優しいのと同じ事だ。
誰にでも同じ態度を取れるのは、きっと、誰も特別ではないからだ。
たった一人、お互いを除いては。
だからあの二人は、これ以上ないくらいお似合いなカップルだ。
二人の間に入り込める人は誰もない、そんなカップルを、お似合いと言わずになんと言うのだろう。
「・・・・私たち、馬に蹴られしまうかもね」
ネーナとルイスが、わけがわからないという顔で私を見つめる。私は自分の考えを人に伝えるのが苦手だから、よくこういう顔をされる。あぁ、そういえば刹那も同じだな。自分の考えを人に言わないから、すぐに誤解される。
そんな刹那を理解していたのは、やっぱり、同じようなロックオンだけだった。
だから私はずっと、刹那が好きになるのはロックオンだと思っていた。
「予想通りすぎて、何も驚くことなんてないのに」
「もー降参! お願いだから私たちに分かるように言って」
ルイスが両手を挙げて叫ぶ。ネーナはまだうんうん唸りながら考えているけれど、きっとそのうちギブアップするのだろう。
「心配しなくても、ロックオンは刹那を傷付けないってこと」
私が微笑むと、二人は釈然としないようだったが、それでも押し黙った。そう、なんやかんや言いながらも、彼女たちは刹那が心配だっただけなのだ。
「俺とロックオンがなんだって?」
「あ、刹那」
「「げ、刹那」」
突然やって来た刹那に、ネーナとルイスは隠し事がばれた子供のような顔をした。オレンジジュースを手に、私の隣に座った刹那は、いつもの無愛想な顔のまま「何を話していたんだ?」と言った。
「刹那とロックオンはお似合いだねって話をしてたの」
「・・・・お前たち、本当にいつか馬に蹴られるぞ」
「邪魔はしてないよ? 応援してるだけ」
その言葉に、刹那は控えめに、でも幸せそうに笑った。
そんな表情をするようになったのも、きっと、彼の影響なのだろう。いい影響だ、これは。
私はそんな事を考えながら、オレンジペコの残りを一気に飲み干した。
お馬さん、どうぞ私たちをお蹴りください