『恋心の殺し方』ニル←刹





 誰にも、それこそ本人にだって言うつもりはなかった。何年も胸に隠して、そしてこれからも隠し続けるつもりだった。言ってどうにかなることではないだろうと、とっくの昔に諦めていた。


 それでも、この気持ちを殺す事だけは出来なかった。








 刹那は駆け込んだ自室の扉を勢いよく閉めると、おぼつかない足取りでベットに倒れこんだ。走ってきたので息が乱れ、心臓も焼け付くように痛む。刹那はうめき声を上げてシーツを握り締めた。


 「・・・ロックオン」


 見てしまった。展望室で、彼が仲良さそうにフェルトの肩を抱いているのを。


 赤褐色の大きな瞳からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ、シーツにしみを作って消えていく。それを拭うことすらせず、刹那はただ彼の名前を呟き続けた。


 誰にも言っていないし、言うつもりもない。今まで隠し続ける事ができたのだから、これからだってできるだろうし、そうするつもりだ。けれど。


 心が張り裂けそうだった。こんな状態で、どうやって彼と接すればよいのだろう。いくら刹那が感情を表に出さないとはいえ、今は無理だ。


 「・・・・殺そう」


 この感情を。彼を愛しく思う気持ちを。全て殺して、明日から何事もなかったように彼に接しよう。


 そうでなければ、狂ってしまう。


 クルジスにいた頃から持っていたナイフを胸に抱いて、刹那は瞳を閉じた。次に目を開けるときは、自分はもう悲しくない。つらくない。





 恋心の殺し方


 (殺して殺して殺し尽くそう) (俺が狂ってしまうまえに)








 お題はララドールさんよりお借りしました。

















『どうせあと5秒で終わる世界だ』 ニル刹







 「キスしてくれないか、刹那」


 TVのアナウンサーが早口で何かまくしたてているのをぼんやり眺めていた俺は、背後で俺を抱きしめているニールが何を言ったのか理解できなかった。


 「な、いいだろ。いつだってキスするの俺からだったし。今日くらいはさ」


 「お前、今がどういう常態か分かっているのか?」


 「え、世界滅亡寸前?」


 なんでもない、と言う風にニールはそれを口にした。そう、世界は終わる。散々資源を貪ったんだ。終わりが来るのなんて、当たり前だろう。


 「どうせ終わるんだったら刹那のキスで終わらしてよ」


 「・・・・・お前、きっと世界で一番の馬鹿だな」


 TVのアナウンサーが世界滅亡まで10秒を切ったと叫んだ。俺は心の中で静かにカウントダウンを唱えながら、そっとニールの頬に手を添えた。


 「ニール、愛してる」


 「ん、俺も」


 最後の口付けは、いつもどおりの甘いキスだった。





 どうせあと5秒で終わる世界だ


 (最後が甘いキスなんて、最高の終わり方じゃないか!)





 お題はララドールさんよりお借りしました。




















 『僕が神様であったなら』 アレ刹














 ぼくが氷枕を手に戻ってきたとき、すでに刹那は眠っていた。その顔色はまだ悪いままだったけれど、眠ったのならきっとすぐによくなるのだろう。


 刹那の額に当てておいた布をとり、冷たい水で湿らせてからまたのせる。微熱程度だけれど熱はあった。ドクターモレノ曰く過度の疲労による発熱らしい。廊下の途中で倒れているのを見たときは、心臓が止まるかと思った。


 「世も末だね、ハレルヤ。まだ子供の刹那が、過労だなんて・・・・」


  答えはない。返事くらいしてくれたっていいと思うけどな。刹那の身の回りを整えていたぼくは、眠っている刹那が何かを握り締めている事に気が付いた。


 それは小振りのナイフだった。


 刹那はそれを両手でしっかりと握り締めている。まるで、縋りつくかのように。


 あぁ、この子供はなんて。


 いつだったか、神なんていないと刹那は言っていた。ぼくだって、神様なんて信じてはいないけれど。


 それでも神様がいたのならば、いったいこの世界はどんな風になっていたのだろうか。まだ幼い彼が、ナイフなんかに執着してしまうようなこの世界は。





 僕が神様であったなら


 (ぼくが創った世界なら、君は笑っていられるのかな)





 お題はカカリアさんよりお借りしました。




























 『猛獣は空腹なようです』 ハレ刹











 特に何もない、普通の日だった。ミッションもなく、暇をもてあましていたから俺は自室で大人しく本を読んでいた。何時間経っただろうか、時計を見れば昼時だった。食堂でランチでも食べようかと立ち上がった時、突然部屋にハレルヤが入ってきた。珍しい、とか思っていたら、


 ハレルヤに押し倒された。


 反転する視界。痛む背中。どうせ押し倒すのならベッドにして欲しかった。床は固くて痛い。


 「ハレルヤ?」


 「・・・・・・」


 無視か、このやろう。ハレルヤは俺の首筋に顔をうずめながら、両手で俺の服の下をまさぐっている。昼間からなに盛ってんだ、こいつは。


 「ハレルヤ?」


 「・・・・・・」


 「ハーレールーヤー」


 「・・・・・・」


 やっぱり無視か。俺は両手でハレルヤの頬をはさむと、むりやり視線を合わせた。文句の一つでも言ってやろうと思った。だけど、俺はハレルヤの目を見てしまった。


 エサを取り上げられて不満そうにしている、獣のような目。


 「・・・・・ヤるんだったらベッドに連れていけ」


 文句の替わりに出したのは了承の言葉。ハレルヤは無言で頷くと、俺を抱き上げてベッドへ運んだ。


 こいつの昼食は、どうやら俺らしい。





 


 (いただきます) (いただかれます)











 お題はララドールさんよりお借りしました。