経済特区・日本の街中を、相変わらず無愛想な顔をした刹那と今にもスキップでもしだしそうなくらいご機嫌なアレルヤは歩いていた。
今まで女性らしい物事に何の興味も示さなかった刹那だが、アレルヤという恋人が出来てから、少しはそういう類のものを気にし始めたきたのだ。
それが、この買い物のきっかけ。
「あそこだ」
刹那が指差したのは、女性に人気だと騒がれている店。なんでも、化粧品や服など、女性専用の品々を専門に販売している店なのだとか。
女性である刹那ならともかく、男であるアレルヤは完全に浮きそうな店だが、店内には何組ものカップルが仲良さそうに買い物を楽しんでいる。これなら大丈夫だろう。
と、思ったのが甘かった。
刹那が服の試着のために店員に連れて行かれてしまった今、アレルヤは途方にくれていた。
すすめられたイスに座ってはいるものの、右を見れば化粧品、左を見れば女性ものの洋服。落ち着かないことこの上ない。
(刹那・・・お願いだから早く帰ってきてー)
そう祈るアレルヤの目に、とガラスケースに収まったとある物が目に入った。
ふらふらとそれに近づき、眺めていると店員がやってきた。
「スイマセン、これ・・・・・」
刹那も刹那で困っていた。
試着のためだとかなんとか言われ、アレルヤと引き離されてしまい、次から次へと着慣れない女物の服を試着させられる。
店員はニコニコ顔で刹那に服を手渡しては「お似合いですよ」と言ってくるが、刹那には何がなんだかよく分からない。
今度はクリスティナやフェルトに選んでもらおう。刹那はそう心に決めた。
「あ、お帰りー」
別れた場所に戻ってみると、アレルヤがイスに座って待っていた。着せ替え人形にされて疲れた刹那は、アレルヤの隣に腰を下ろす。
「あれ? 結局買わなかったの、服?」
「何がなだかよく分からなかった・・・・すまない、こんなことに突き合わせてしまって」
「ううん、全然構わないよ。あ、刹那、コレ」
手に持っていた紙袋から、アレルヤが取り出したのは四葉のクローバーのブレスレット。
「これくらいだったら、つけていてもミッションとかに支障ないかなって」
手渡されたそれを、刹那は驚いた顔で見つめながら、恐る恐る手につける。
「きれいだ・・・・」
「うん、すごく似合ってるよ、刹那」
「ありがとう」
はにかみながらも嬉しそうに笑った刹那に、アレルヤは見惚れた。
「刹那、知ってる? 四葉のクローバーの花言葉」
知らない、という顔をした刹那にそっとささやくと、数分間をおいて、
「よろこんで」
返ってきた言葉に、アレルヤは心のそこからほっとした。
ずっと前から思っていたんだ、そのことを。
君にそれを伝えることができる、この瞬間を。
四葉のクローバーの花言葉は、『私のものになって』