初めて会ったその瞬間、まるで雷に貫かれたような衝撃が全身を駆け抜けた。隣を見ると、双子の兄弟が同じように硬直していた。きっと彼も同じなのだろう。


 『はじめまして、せつなです』


 気が付けば、舌足らずな言葉でたどたどしく挨拶をする腹違いの妹を二人で抱きしめていた。








 重い。重すぎる。


 刹那は急激に覚醒していく意識の中、はっきりとその邪魔な存在を感じ取った。十年前この家にやってきたときから変わらず使っている一人用のベッド。その中に自分以外の誰かがもぐりこみ、あまつさえ自分の腰に手を回し胸に頭を押し付けている。


 誰だ、なんて分かりきっている。問題はどちらか、だ。


 もぞもぞとその腕からの脱出を試みるが、がっちりと拘束されていて身動きが出来ない。あぁ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ!


 「・・・いいかげんにしろ、この馬鹿!」


 ごちん、と。


 全身の力を込めた刹那の拳が、その誰かの後頭部に見事にぶち当たった。


 「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 「離れろ離れろはーなーれーろー!」


 頭を押さえ痛みにのた打ち回る男をさらに殴りながら刹那は喚いた。すでに拘束は解かれていたが、一人用のベッドに二人は狭い。しかも一人は成人男性だ。


 「いたたたた・・・。全く、朝からバイオレンスだなぁ、刹那」


 「いいからどけ、リジェネ・・・じゃなかった、兄さん」


 今朝はアンタだったのか、と刹那は目の前で全く悪びれていない男を睨みつけた。この男、妹のベッドに侵入し抱き枕代わりと言わんばかりに抱きしめて眠っていたくせに、反省の色が見えない。もう一発殴ってもいいだろうか。


 「朝から何をしているんだ、お前たちは。もう朝食のしたくは出来ているぞ」


 「あーおはよう、ティエリア」


 「ティエリア・・・・・・じゃない、兄さん」


 ドアに寄りかかった、目の前の男と全く同じ容姿をした男、ティエリアはベッドの上でぶつくさ言っているリジェネには目もくれず、恒例のおはようのキスを刹那の頬へと落とす・・・・つもりが、気付けば刹那の両手にキスをしていた。


 「刹那・・・?」


 「もうおはようのキスはしない。リジェ・・・兄さんも、俺のベッドにもぐりこむのはやめてくれ」


 うつむいてぼそっと呟かれた言葉に、双子はそろって硬直した。しかし、それもつかの間。次の瞬間には二人そろって刹那を押し倒していた。


 「・・!? どいてくれ、兄さんたち!」


 「嫌だ」


 「嫌だね」


 同じタイミングで紡がれた拒絶の言葉に、刹那は驚いた。だって、この兄達はいつだって自分には優しくて、自分の頼みはなんだってきいてくれて、拒絶された事なんて一度もなくて。


 「兄さん、なんて他人行儀な呼び方をする子の言うことなんてきかないよ」


 「おはようのキスを拒んだ子の言うことなんか、きくはずないだろ」


 「そんな!」


 いたずらっ子のように笑っている兄達をなんとか押しのけようと奮闘するが、なにしろ体格差というものがある。刹那が二人をどかそうと実りそうもない努力をしているうちに、ティエリアとリジェネは軽いキスの嵐を刹那に降りそそいだ。


 「ねぇ刹那。一体何があったのさ?」


 「君が僕たちを拒むなど、今まで一度もなかったはずだ」


 「・・・・エイミーに」


 兄たちの真剣な瞳に見つめられて、刹那はぽつりと仲の良いクラスメートの名を口にした。


 「兄妹というのは、ベッドで抱き合ったり唇にキスしたり16歳にもなって一緒に入浴しないのだと聞いた。それに」


 兄妹では結婚できないのだと、と泣きそうな顔で言う刹那に、ティエリアとリジェネは顔を見合わせるとくすり、と意味ありげに笑った。


 「なんだ、そんなことか」


 「まあ確かに法律上、兄妹同士じゃ結婚できないけどね」


 くすくすと笑いあう兄たちに、刹那は首をかしげた。


 「刹那、そんなもの気にしなくていい」


 「そうそう、法律なんて適当に守ってればいいのさ」


 「え、でも・・・」


 「そんなに気にするのなら、僕が法律を変えてやろう」


 「あ、いいねそれ。大体昔は腹違いだったら結婚できたし、今でも従兄妹同士は結婚できるんだから、兄妹だって問題ないよ」


 「まずは議員になって国会に改正案を提出するか。オランダやベルギーでは同性婚も認められているからな。その辺りを参考にすれば案外簡単にいけるだろう」


 「そうだね。そんな感じにさくさく進めちゃえばいいんじゃない?」


 「「だから、刹那」」


 ずい、と顔を近づけて不敵に微笑む兄たちを、刹那は困惑の表情で見つめた。


 「君は何も心配しないで」


 「僕たちに愛されていればいいんだ」


 「「だって、僕たちは君を愛しているんだから」」


 ちゅ、と刹那の両頬に口付けた兄たちに、刹那はこれでいいのかなと疑問を覚えながらも、これからも三人一緒にいられるのなら、とお返しに兄たちの頬に口付けた。





 Even too heavy love is comfortable.