もし、あなたがこんな事態に落ちいたらどうしますか?
そう、例えば好きな子の頭からネコミミが生えていたりしたら・・・・・
その日、CBメンバーは王留美が所持する別荘にいた。
各自日頃の疲れを癒そうとくつろいでいたところに、王留美が慌しくやってきて、女性陣に何事か耳打ちすると、彼女たちはすぐさま部屋を出て行ってしまった。
おもしろそうだ、と呟いたのは誰だっただろうか。
だか、皆その様子に興味を持ったのは事実。
ならば、追いかけてみようとするのは当然の流れといえた。
とにかく、女性陣の後をついて行って、着いたのはとある部屋だった。
広いということを除けば、なんの変哲もない部屋。その部屋の中央に立っているのは紅龍と後・・・・・
「刹那?」
ぴくん、と身体を揺らして振り返った少女の頭には。
「何、それ・・・・・?」
黒くてふさふさの、ネコミミが生えていた。
「きゃー刹那可愛い!!」
あっという間に女性陣に取り囲まれる刹那。さも当然のように受け入れている女性陣とは反対に、男性陣は困惑するしかない。
口をパクパクさせ、唖然とする男性陣に王留美が説明を始める。
「実は、わたくしが私用で設立させた研究チームに開発させた薬を刹那が誤って飲んでしまったようで」
「だからって、ネコミミ・・・・・」
いったいどんな目的のために開発させたというのか。おおいに気になるところだが、軽はずみな発言をして王留美を怒らせたら後が怖い。
それになにより、こんな可愛い刹那を見られたことだし。
「刹那・・・うわ、犯罪的な可愛さだぜ」
「あなたがそのセリフを言うと本当に犯罪になりそうですよ、ロックオン」
「全くだ。少しは歳の差という物を考えろ」
「うるせー 俺だって気にしてんだ!」
なんだかかわいそうな会話を始めるマイスターズを無視し、女性陣は「かわいー」と刹那をいじくりまわす。すると、
「にゃぁ」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
なんだか、今刹那の口からありえない音が出たような・・・・・
「せ、刹那・・・・?」
「にゃー」
「「「「!!!?」」」」
ありえない。思えば、刹那がこんな風にされて大人しくいじくられている時点でおかしかったのだ。
「あ、言い忘れてましたが、刹那が飲んだ薬はまだ開発途中の物で、色々と副作用が出てしまうらしのです。
ご覧のとおり、今の刹那は完全にネコとなっておりますわ」
くしくしと顔洗いをする刹那の行動は、まさに猫そのもの。
滅多に見れない刹那の愛らしい姿。ロックオンはどこから取り出したのかカメラ手に、ごろんとくつろぐ刹那を撮ろうとした。
「あ、ロックオン、そんなものいつのまに」
「こんなこともあろうかと用意しておいたけど、役に立ってよかったぜ」
「こんな事を予測する者は普通いないと思うがな」
ティエリアとアレルヤに色々言われながらも、パシャリとロックオンのカメラのフラッシュが部屋を照らしたとき。
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
突然猛ダッシュで部屋から飛び出していった刹那。
「・・・・・どうやら、そのフラッシュに驚いたようですわね」
「なんてことしたんですかロックオン!!」
「この愚か者が。万死に値する」
「いでででっ!! 蹴るな蹴るな! 悪かったって」
怒り心頭の二人が激しくロックオンを責める。そんな時、王留美が「困りましたわ」と呟いた。
「まだ開発途中の薬でしたので、刹那には早く解毒剤を飲ませようと思っていましたのですが・・・・・これでは飲ませられませんわ。この屋敷は広いので探すのも一苦労ですし」
本当にとんでもないことをしてくれたのだ、ロックオンは。
「マイスター達のほうが体力的にわたくしたちより優れてますし、探してきてくださいません? その間、わたくしは解毒剤の準備をしてますわ」
「「「喜んでっ」」」
瞬間、ものすごい速さで部屋を飛び出していったマイスター達。ま、それはそうだろう。
刹那を捕まえれば、当然、解毒剤を準備するまでの間とはいえ刹那を独り占めできるのだ。
こうして、三人の男vsネコ刹那の戦いは始まったのだった。
* * *
第一ラウンド。ロックオン・ストラトス
「刹那ーどこだー?」
無駄に広い屋敷の中を適当にさまようながら、刹那を探す。あの叫び声からして、そうとう驚いたのだろう。
しかし、それにしても。
「刹那かわいかったなー」
思い出しただけで頬が緩む。あの無愛想の塊のような刹那が、ネコミミで、しかも「にゃぁ」と鳴いたのだ。当然、男として反応するものは反応する。
「なんとしてでも、アイツらより先に捕まえてやるぜ」
やる気に満ち溢れたロックオンは叫びながら屋敷内を走り回った。
その成果が出たのか。
「おっ!! 刹那発見♪」
階段の踊り場で丸くなっている刹那を発見。
「ほーら、こっちおいで〜」
手招きして呼んでみると、刹那は興味深そうにそろそろとこちらに寄ってきた。
優しく頭を撫でるとごろごろとのどを鳴らす。
(うわ、かわいい・・・・・)
身体を摺り寄せて甘えてくる刹那にロックオンの理性はブチ切れそうだ。
「にゃぁー」
そんなロックオンの心境も知らず、すっかり懐いた刹那はペロリとロックオンの頬をなめた。
ぶちっ
「刹那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
理性がブチ切れて抱きついたロックオンに、刹那はあらんかぎりの力を使って大絶叫を発するとロックオンの顔を引っかいて逃走した。
「いででででっ」
廊下の踊り場で、顔をおさえて転げまわる男の姿はなんともいえないくらい哀れだった。
ロックオン・ストラトス ゲームオーバー
* * *
第二ラウンド。アレルヤ・ハプティズム&ハレルヤ・ハプティズム。
喜んで、と飛び出しては来たものの。
実際のところ、アレルヤはどこを探したら良いのか見当もつかなかった。
「どうしよう、ハレルヤ?」
『あー? んなもん、てきとーに探し回りゃいいだろ? 体力的に一番有利なのはお前だし』
「それはそうだけど・・・・・」
『いいか、絶対にあいつらに刹那を渡すんじゃねーぞ』
「わかってるよ」
どうしたものか、と悩み始めたアレルヤの脳裏にいいアイディアが浮かんだ。
〜数十分後〜
『おい、アレルヤ。これで本当にうまくいくのか?』
「うん。たぶん」
アレルヤが考え付いた作戦とは、『餌で釣ろう作戦』(そのまんま)。
廊下の真ん中には、刹那の好物であるガーリエ・マーヒーとミルク。
「お腹がすいている刹那だったら、飛びつくよ。たぶん」
『なんだよ、そのたぶんって』
いまいち不安が残る作戦だが、アレルヤは正しかったらしい。
「にゃー」
心なしか髪などが乱れた刹那がとことことやって来た。廊下の真ん中にどでん、と置いてある怪しげな食料にも警戒心0で寄ってくる。
(もう少し・・・・・)
ふんふん、とガーリエ・マーヒーとミルクの匂いをかいでいた刹那は毒物の類は感じなかったのか、夢中で食べ始めた。
「よし!」
刹那の集中が餌に向いたところで後ろから静かに歩みより、捕まえようとした、そのとき。
「にゃー」
あっというまに食べ終わった刹那が動いた事で、アレルヤの手は空振り。しかも刹那に気付かれ、あっという間に逃げられてしまった。
「・・・・・・」
『テメー、ばかだろ」
「・・・・うるさい」
アレルヤ・ハプティズム&ハレルヤ・ハプティズム ゲームオーバー
* * *
第三ラウンド。ティエリア・アーデ
猫なんて、今まで接した事があっただろうか。
ティエリアは自分の記憶の中から動物と接した時の記憶を探して、断念した。自分がそのような生物に興味を持つ事などないはずなのだから。
ゆえに、猫の接し方が分からない。
ゆえに、猫化した刹那の接し方が分からない。
ティエリアは忌々しげに舌打ちすると、刹那の捜索を再開した。猫がどのような行動をとる、なんて分からないから、ふらふらと適当に歩く。
そんなティエリアが、刹那と出会えた事は幸運ともいえる。
日当たりの良い窓際でうとうととまどろんでいる刹那。
「・・・・・・・・」
見つけたのはいいが、これからどう行動すべきなのか。眠そうにしていた刹那はティエリアを見つけ、警戒態勢に入っている。
「ふ、所詮は動物」
ティエリアは、こちらを見つめて微動だにしない刹那を見据える。
「人間に勝てるはずがない」
言うか早いか、走り出したティエリア。目標は当然刹那。
「みゃっ!?」
驚いた刹那も走って逃げるが、少しずつ距離は縮まっていく。
とうとう廊下の行き止まりに追い詰められた刹那。ティエリアは自分の勝利を確信し、笑みを浮かべる。
「さぁ、これで終わりだ」
じりじりと刹那を追い詰め、腕を伸ばしたその瞬間。
「にゃあっ!」
壁に向かって跳んだ刹那。壁を蹴りつけ、そのまま反動で反対方向へ身体を向け・・・
唖然とするティエリアの顔面を踏みつけ、猛ダッシュで逃げていった。
なんというか、猫は予想以上に動きが良かった。
日当たりの良い廊下に、ティエリアが頭から倒れこんだ騒々しい音が響いた。
ティエリア・アーデ ゲームオーバー
「おっ」
「あっ」
「ん?」
ばったりと出くわした三人。自分以外も刹那を捕まえられていない事に安堵しながらも、相手の姿に驚く。
「ロックオン、その顔の傷はどうしたんですか?」
「おおかた、理性が切れて刹那に飛び掛った結果だろう。この変態が」
「そういうティエリアだって、なんだよ、その靴跡」
「わ、大丈夫?」
「・・・・・問題はない」
「そう? ならいいんだけど・・・・・! うるさいよ、ハレルヤ。君だって賛成したじゃないか」
「・・・・何してんだ?」
「あ、今ちょっとハレルヤとケンカしてて・・・」
各自、それぞれ相当の痛手を受けた事を実感しながら、元いた部屋へと戻る。
「捕まえられなかったぜー」
「スミマセン、無理でした」
「・・・・・・」
「あら、おかえりー」
振り返ったスメラギの腕の中には刹那が。
「「「は?」」」
スメラギは、ごろごろとのどを鳴らして甘える刹那を楽しそうに可愛がっている。
「あ、刹那ね。フェルトが見つけてくれたの」
刹那を撫でながら頷くフェルト。見れば、彼女の手には。
「マ、マタタビ・・・・・」
「そんなんありかよー」
「・・・・・」
悔しそうにうなだれる三人。フェルトはその無表情をほのかに喜色に染めながら刹那を抱きしめたのだった。
Winner フェルト・グレイス