水がはじける音が聞こえた。
刹那は砂場にいた。目の前には広大な川が広がっていた。あまりにも大きいので反対側の陸地が見えないほどだ。一瞬海かと思ったが、潮の香りがしないのでやはり川なのだろう。
「あーあ、刹那来ちまったのか」
「ロックオン・・・・・」
足首を川につかせ、そこにロックオンが立っていた。彼が歩くたびに水がはねてぱしゃぱしゃという音が響く。
「いい歳して水遊びか?」
「水遊びを馬鹿にするなよー。けっこう楽しいんだぜ。あ、でもお前はこっちに来ちゃ駄目だからな」
いつのまにか目の前に立っていたロックオンがくしゃくしゃと刹那の頭を撫でる。こっちに来ればいいものを、彼は砂辺ギリギリの浅瀬に立って精一杯手を伸ばしている。
「ロックオン・・・・・」
頭をかき回す感触がくすぐったくて、でも嫌ではなかったから刹那は瞳を閉じて身をゆだねた。ロックオンの長い指が刹那の唇に触れた。けれども、いつものようなキスはこない。
「ロックオン?」
「なぁ、刹那。お前はまたこっちに来ちゃいけないんだよ」
いぶかしんで名を呼ぶと、ロックオンはどこか寂しそうな笑顔でそう言った。刹那が彼の言葉の意味を考えているうちに、ロックオンは指を刹那の両目に滑らせ、瞳を閉じさせる。
「まだお前は世界を変えていない。やらないといけない事をやり終えていないだろ? だったら、こんなところで道草食ってる場合じゃないぞ」
くすくすといたずらっ子のような笑い声が聞こえた。彼の顔がみたいのに、ロックオンの指が邪魔で目を開けられない。
「ほら、まだ今なら間に合うから。帰って、世界を変えて来い。変えられなかった、俺たちの変わりに」
「ロック、オン・・・・?」
ぽろり、と刹那の瞼から涙がこぼれた。彼の顔が見たい。彼の胸へと飛び込みたい。けれど、なぜかどんどん意識が薄れていく。
「刹那、さよならだ」
「嫌だ・・・ロックオン!」
伸ばした手は、何もつかめなかった。
「・・な・・・つ・・つな! 刹那! 刹那!」
ひどく焦っているような声で何度も名を呼ばれている。刹那がゆっくりと瞼を開けると、そこはトレミーの集中医療室だった。名を呼んでいるのはスメラギだ。いや、彼女だけじゃない。CBのメンバーが自分の周りに立っているのが見えた。皆泣きそうな顔をしている。
「ここ、は・・・・?」
「しゃべらないで。良かった・・・・刹那、刹那・・・」
「刹那、君はアロウズとの戦闘で怪我を負ったんだ。三日間も意識が戻らなかったんだよ。本当に、心配した・・・・」
泣き崩れるスメラギに代わって、どこか疲れたようなアレルヤが答えた。彼も頭に包帯を巻いている。起き上がって身体を確かめようとしたが、動く事が出来ない。
「あ・・・・・」
ぽろぽろと、刹那の両目から涙がこぼれた。嬉しいけど悲しくて、刹那は流れる涙をぬぐう事すら出来ず、ひたすら声を押し殺して泣いた。
ねぇ、なぜ貴方は邪魔をしたの?
貴方に会えるのなら、死んだとしても構わないのに。