子供は嫌いか、と尋ねられても刹那は否定も肯定もしないだろう。好き、と答えるほど好んではいなかったが、無邪気に騒ぐ子供の笑顔は少し好きだった。
まさか、その考えを覆す存在が現れるとは露ほども思わず。
刹那、と自分を呼ぶ声が背後から聞こえた瞬間、刹那は振り返りざまにすさまじい勢いで足を蹴りだした。がつん、と感じる手ごたえ。その感触に刹那は内心でガッツポーズをすると、背後に立っていた人影に目を向けた。瞬間、顔色を変えた。
そこに立っていたのは、刹那の回し蹴りをそのたくましい腕でガードしているアレルヤだった。
「・・・・・ずいぶんな歓迎だね」
「っ!? すまない、アレルヤ。名前を呼ばれたから、つい」
「彼だと思った?」
「・・・・・」
苦笑と共に紡がれたその名に、刹那は自分の眉間に皺が刻まれるのが分かった。聞くだけで疲れが増す気がする。
「子供のお守りは大変そうだね」
「だと思うなら替わってくれ。昨日だっていきなり部屋に押しかけられて・・・・・」
「心の底から遠慮しておくよ。部屋、ロックかけてなかったの?」
「ハロを使われた・・・・・・」
「・・・・それって不法侵入じゃ・・・・」
アレルヤから同情の視線をひしひしと感じながら、刹那は深いため息をついた。最年長ということで世話を一任された最年少の少年に、刹那はCB加入以来ずっと頭を悩ませてきたのだ。
「まぁ、あまり気にしないほうがいいと思うよ。彼、まだ子供だし」
「子供だからと言う理由で全てが許されるのなら、アレルヤ、今すぐあいつを背後から撃ってきてくれないか? お前は未成年(こども)だし」
「・・・・・・・・はい、これスメラギさんから。次のミッションに関する資料だって」
暗い目でぼそり、ととんでもないことを呟いた刹那に、アレルヤはこれ以上この話題を続けてはいけないと判断したようだ。刹那の手にファイルを押し付けると、がんばれと慰めにならない言葉を残していってしまった。
刹那は本日二度目のため息を吐き出すと、アレルヤから渡されたファイルをめくった。次のミッション地は南米、遂行者は・・・・・・
「・・・・・げ」
「お、次のミッション、俺とアンタが組むんだ。よろしく〜」
ひょっこりと背後から首を伸ばしてファイルを読んできたライルに、刹那は何か言葉を書けるよりも早くその顔面に拳を叩き込んだ。
「どこから湧いて出た!?」
「いってぇ、そんな虫みたいに言わないでくれよ。刹那が気付かなかっただけだろ」
背後に無言で忍び寄ったくせに何を言うか。刹那が何も言わないのをいいことに、ライルはそのまま後ろからファイルを盗み見る。気のせいか、顔が近い。訂正、気のせいではなく顔が近い。
「・・・・お前、自分のファイルはどうした?」
「あー・・・・部屋かな。取りに行くのもめんどうだし、このまま見せてよ」
「邪魔だ。消えうせろ」
「そんなこと言うなよ〜。あー刹那すっげぇいい匂い」
首筋に顔を寄せうっとりと耳朶に囁かれて、刹那は背筋がゾクリと震えるのを感じた。思わず漏れた色っぽい吐息に気を良くしたライルは、ぺろり、と刹那の首筋を舐め上げた。
「っ!?」
「アンタ、甘いんだな」
「っにするんだ、この!」
猛り立って拳を振るうも、難なくよけられ逆に壁に押し付けられた。そのうえに覆いかぶさるように、ライルが壁に腕を着いた。自分より年下なくせに、自分のそれをゆうに超える身長が憎らしい。戸惑う刹那にライルが不敵な笑みを見せ、
ちゅっ、と軽い音を立てて、刹那の唇にライルのそれが触れた。
「ごちそーさん」
仕上げとばかりに刹那の唇を舐め上げる。がし、と刹那の手がライルの襟首を掴んだ。あぁ、殴られるかもなぁとライルが覚悟を決めた時。
接近してくる顔。唇に感じる熱。ぬるり、と侵入してくる熱い塊。掻き乱される口内。
くちゅり、と湿った音と共に刹那の唇は離れていった。唇の端についた唾液を舐め取る、ただそれだけの行為がとても艶やかに見える。
「大人を舐めるな、クソガキ」
唖然とするライルの耳元にそう囁くと、刹那は踵を返して立ち去った。
「これは反則だろ・・・・」
唇の熱を確かめるように、そこに触れる。誰に言うでもなくそう呟いたライルの頬は赤く染まっていた。
負けず嫌いの攻防戦
ライルは知らない。刹那が曲がった角の先、刹那が真っ赤な顔をして息を整えていた事を。
れの様より、『ライ刹♀で年齢逆転』でした。
刹ライっぽいですけど・・・・ライ刹です! 大人の色気と言うのを書きたかったんです(撃沈しましたが)。
素敵なネタ、ありがとうございました。とても楽しかったです。