『ありがとう、ごめんなさい、さよなら。こんな安っぽい言葉しか残せない僕だけど、誰より君を愛してた』 神アレ♀








 白い肌だ、と常々思っているそれに、アレンはそっと触れた。アレン自身も雪のよう、と称されるほど白いのだが、彼の場合、宵闇を切り取ったようなその黒髪があるから、よりいっそう肌の白さが目立つのだと思う。


 瞳を閉じている彼の、白く滑らかな肌をなでる。本当は目を合わせて、言葉を交わして。彼が生きている実感を味わいたかったけれど、傷だらけで眠っている彼を起こすのが忍びなくて、アレンは欲求を抑えて黙っていた。


 「ありがとう」


 何を、とは言わない。言う必要がない。それは彼が生きている事だとか、自分といてくれた時間だとか。数え上げればキリがない、彼の全てに対する言葉であったから。


 「ごめんなさい」


 何を、とは言わない。言う必要がない。それは彼を愛してしまったことだとか、自分の罪の重さだとか。数え上げればキリがない、自分の全てに対する言葉であったから。


 「さーー」


 ようなら。そう紡ぐはずだった唇は、突然の邪魔者によって阻まれる。ほかでもない、彼の手によって。


 「なにを、言ってやがる」


 神田が薄く瞳を開けた。呼吸をするだけで苦しいのだろう、懸命に言葉を続ける彼の額には脂汗が浮いていた。


 「なにが、『ありがとう』だ。なにが、『ごめんなさい』だ。俺が聞きたいのは、そんな言葉じゃねぇ」


 語尾を荒げて。アレンの腕をつかむ力を強めて。そんな神田に、アレンは泣きそうな顔をして子供のようにただ繰り返した。


 「ありがとう、ごめんなさい、ありがとう、ごめんなさい、ありがとう、ごめんなさい!」


 「アレン!」


 「さようなら」


 静かに囁いた言葉。同時に突き飛ばすように神田の腕から逃れたアレンは微かに笑っていた。けれどその顔は、幸せそうでもあり、同時に酷く悲しそうでもあった。


 「アレン!」


 純白のマントがアレンを包む。それが彼女のイノセンスだと気付いた時には、すでにそこには誰もいなかった。


 さようなら。その声が地面に落ちて、砕けて散った。





 ありがとう、ごめんなさい、さよなら。
こんな安っぽい言葉しか残せない僕だけど、誰より君を
してた








 お題は風雅さんよりお借りしました。