燃えていた。何もかも、全てが。


 真っ赤に染まった街をただぼんやりと見つめていた。身体のあちこちが痛んで、見れば傷だらけだった。それはそうだ。今の今まで、自分もあそこにいたのだから。


 「へぇ・・・・生き残りやがったのか、お前」


 聞き慣れた男の声。のろのろと顔を上げると、そこにいたのは燃え盛る炎より紅い髪の男。


 「アリー・・・・」


 「ガキ共は全員死ぬはずだったんだがな。ソラン、テメェは運がいい」


 「・・・違う」


 「あぁ?」


 濁っていた赤褐色の瞳に光が宿った。思わず、アリーはその色に見入った。


 「『ソラン』は死んだ。他の皆と同じように、恐れず敵へと立ち向かって死んでいった」


 「・・・じゃあ、テメェは誰だ?」


 「・・・・・俺は」


 答えられなかった。だって、『ソラン』は死んだのだ。では、自分は誰?


 「・・・・俺は、誰でもない」


 「は、名前がねぇのか。じゃ、テメェは今から『刹那』だ」


 刹那。聞き慣れない単語を口の中で呟くうちに、なぜだか自分は生まれたときから『刹那』だった気がしてきた。


 「『刹那』・・・・・俺は、『刹那』」


 「これからどうするんだ、刹那」


 アリーの問いかけには答えられなかった。『ソラン』には神のために戦う、という存在理由があった。だけど、今生まれたばかりの『刹那』にはそれがない。この世界のどこにも、刹那の存在すべき場所はない。


 「俺たちと来るか? テメェは覚えが良かったからな。ちったぁ使えるかもしれねぇ」


 アリーが片手を差し出した。まぎれもない、刹那の為だけに差し出された手。


 「・・・・・・行く。アンタがいるのなら、どこにでも」


 そして刹那は自分の存在理由を見つけた。