あんなにも蒼かった空が茜色に染まっている。いつもは好きな空が、この時だけは嫌いになる。鈍い夕焼けの色が、戦場に燃え盛る火炎の色に見えるからだ。
「刹那? 空がどうかしたのか?」
ロックオンの指摘に刹那は自分が空を睨みつけている事を知った。慌てて視線をそらすが、ロックオンは空を見て「すげー」とのん気に笑い出した。
「すげー夕焼け。あ、あれに見惚れてたのか、刹那は?」
「違う。・・・・・・夕焼けは嫌いだ。戦場のことばかり思い出す」
ロックオンの薄っぺらい笑顔に腹が立って、刹那はそんな事を言った。言えば、さすがにこの男もその笑顔を引っ込めると思ったからだ。
そんな刹那の予想に反して、ロックオンが浮かべた表情は悲哀でも憤怒でもなく、いつもと同じ薄っぺらな笑みだった。
「はい、これ。約束の物な」
渡されたのは一個の電子端末。あまりにもふぬけた『デート』だったのですっかり忘れていたが、本来刹那の目的はこれだけなのだ。あまりにもあっさりと渡されたので少々戸惑ったものの、刹那はそれを受け取ると両手でしっかりと握り締めた。
「俺が知っている限りの情報がそれに入ってる。役に立てばいいんだけど」
「お前のターゲットもあいつなんだろう? いいのか、競争相手である俺に情報を渡して?」
「俺だってそんな大層な情報持ってたわけでもないし。それに今日は楽しかったからさ、そのお礼」
あんなののどこが楽しかったのだろうか。刹那が真剣に考えていると、ロックオンはおもむろに刹那の片手を取って、唇を寄せた。
「っ!?」
ちゅっと軽い音をたてて離れていくそれを呆然と見つめていると、目が合ったロックオンはとても嬉しそうに笑った。
「じゃあな、刹那。また会えるか?」
知らん、と出したはずの声は口の中で消えた。
その日、宿泊しているホテルの自室に到着したアリーはベットを見た瞬間、口角を吊り上げて笑った。
「珍しいじゃねぇか。テメーから誘ってくるなんざよぉ?」
ベットで薄い毛布に包まって寝そべっているのは刹那。おそらく、毛布の下は下着姿だろう。ベットに腰掛けたアリーに気が付くと潤んだ瞳で見上げてきた。
「・・・アリー」
刹那が動くと毛布が滑り落ち、その肢体があらわになった。ゆっくりと近づいてきた刹那は身体を摺り寄せると、唇を重ねてきた。
「ん・・・ふぅ・・・」
いつも以上に激しく口内を蹂躙したが刹那も舌を絡みつかせる事でそれに応え、必死に刹那はアリーにすがった。アリーの唇が離れても、それを惜しむかのように伝う銀糸をなめる。
「誘ったのはテメェだ。せいぜい俺を楽しませてくれよ?」
虚ろな瞳で頷いた刹那を見て、アリーは心の底から楽しそうに哂った。