刹那だって、どんよりとした曇り空より晴れ晴れとした青空のほうが好きだ。気分が明るくなる。なのに。
太陽の日差しがさんさんと降り注ぐ公園のベンチに座りながら天を仰いだ刹那は、素晴らしいくらい輝いている太陽と空を見て、出来ることならすぐさま大量の絵の具をぶちまけてどろどろに汚してやりたくなった。
「どうした、刹那? 顔色が悪いぜ」
「なんでもない。それより、手に持っているそれは何だ?」
「そこで売ってたアイス。美味そうだろ? ほれ、刹那の分」
「いらない。うるさい。帰れ。消えろ」
不機嫌の原因である男、ロックオンがやたらと明るい色のアイスをぐいぐいと押し付けてきた。本日何度目かになる刹那の消えろ発言にも慣れたのか、憎らしい笑顔で刹那の隣に座ってアイスを舐めている。
今、刹那は嫌々ながらもロックオンの提案した『デート』を行っている。もちろん、それ相応の見返りを報酬としているからだ。
『今日一日俺とデートしてくれたら、刹那が欲しがっている情報をやるよ』
悔しいが、ターゲットの所在が分からない今、刹那に出来るのは情報収集くらいなものだ。この不愉快極まりない時間さえ耐え切れれば、アリーの元へと情報を届けることが出来る。
必死に耐えろ耐えろと念じながら、刹那は甘ったるいアイスを一口かじった。
ロックオンとの『デート』は、酷くありふれた内容だった。
広い公園で並んでアイスを食べて、ぶらぶらと街を歩きながらロックオンが興味を持った店に入ってあれこれ品物を吟味したり、少し買い物をしたり、腹が減ったと訴えれば刹那が主食としているファーストフードではなくちゃんとした食事のできる店に連れて行かれたり、「普段から女物の服着てみろよ」と大量の服を押し付けてくるロックオンの顔面を殴ったり。
なんで。
戦争を己の生活の一部とし、その手で何人もの人間を殺してきたはずの男のくせに。
自分もこいつも、こういった『普通』なんかはとうの昔に捨ててきたはずなのに。
なぁ、なんでアンタはそんなにも『普通』を求めてくるんだ?