傍らで男が熟睡しているのを確認すると、刹那は身を起こしてさっさと帰る支度を始めた。必要な情報は聞き出したのだから、もうここには用は無い。
あれから刹那はアリーの指示通り、ターゲットに近い人物との接触を試み、結果彼の情人となった。人が気を抜きやすいのは、夜のベットの中と相場が決まっている。特に、この男のように女にいいところを見せたがる奴は。
散らばった衣服を身に着けて、乱れた髪を手櫛で整える。最近のウィッグはかなり外れにくく、装着したままことに及んでも外れないので使いやすい。
ホテルの廊下を早足で進みながら、通信端末でアリーに連絡を取る。もう夜中なので寝ているかと思ったが、端末から聞こえてきたのは聞きなれた男の声だった。
「俺だ。計画通り、情報を手に入れた。これから帰還する」
『相変わらず仕事は早いな。わかった』
「それから、少し気になる情報があった。詳しくは帰ってから報告する」
最後にそう付け足すと、相手の返事を待たずに通信を切った。このまま話すのは面倒だし、なにより刹那は疲れているのだ。
熱いシャワーを浴びて、ゆっくりと眠りたい。刹那はため息と共にそんな願望を吐き捨てた。