久しぶりに見た異国の空は、まるで刹那たちの到着を嫌がっているかのような曇り空。
刹那は見ているだけで気が滅入りそうな空を眺めながら、ホテルのカフェでアリーを待っていた。
彼は今依頼主と会談中だ。彼は普段からそういった公の場に刹那を連れて行かない。それは刹那がスパイじみた仕事を割り当てられるので、顔が割れるのを防ぐためだ。
ちなみに、今の刹那は普段の男のような格好をしていない。高級ホテルらしい落ち着いた雰囲気に合わせた、まるでいいとこのお嬢様といった装いだ。短い黒髪は同色のウィッグで背中まで伸び、カラーコンタクトで瞳の色を黒に変えた。面倒だとは思うが、これも仕事の一環だ。いつもの姿で入ったら、即刻警備員にたたき出されていただろう。
「・・・・あ」
ロビーにアリーが来たのが見えた。慌てて会計をしてカフェから飛び出すと、ちょうどカフェに入ろうとしていた男とぶつかってしまった。
「わっ!」
「!」
床に敷いてあった絨毯のおかげで倒れこんでも痛くはなかった。辺りに刹那の持ち物が散らばる。
「大丈夫か?」
「あ・・・はい。こちらこそすみません」
目の前に差し出された手に一瞬躊躇するも手を置くと、優雅に引っ張り上げられた。そこで刹那は初めて、ぶつかった相手を見た。
明るいブラウンの髪と翡翠の瞳は素直にきれいだと思った。それに、白人特有の白い肌が羨ましい。あまり人の記憶に残りたくない刹那の考えとは裏腹に、この濃い肌の色は目立つから嫌いなのだ。
「はい、これ。本当にごめんな」
「ありがとうございます。私も悪かったのですし・・・連れが待っていますので、失礼します」
男が拾ってくれた持ち物を受け取って一礼すると、刹那は先ほどよりはゆっくりしたペースでアリーの元へ向かった。
何やってんだが、という彼の顔を無性に殴りたいと思った。