長い廊下の角を曲がった瞬間、黒服の男と鉢合わせた。動揺したまま懐から拳銃を取り出した男の首筋をナイフで瞬時に切り裂く。高級そうなカーペットを鮮血が汚すが、もともと生地が赤いのでたいして目立たない。まぁ、目立ったとしても今更どうしようもないのだが。
男が絶命したのを目の端で確認すると、刹那は再び廊下を駆けた。あれで殺した数は三人。死体はその場に放置してきたから、後をたどられているかもしれない。
今、刹那はターゲットが利用している建物にいる。ロックオンからもらった情報と独自で調べ上げた情報を照らし合わせた結果、ターゲットの行動が予測できたので、こうして殺しに来たのだ。そして殺した。
本来なら即刻その場から立ち去って、アリーに報告。細かい後始末はアリーに任せて依頼終了となるはずなのだが、刹那は未だに建物内にいた。
前もって調べてあった護衛の数が予想以上に多い。数十分前に運悪く護衛の一人に見つかり瞬時に殺したのだが、彼らが死んだ事が仲間内に知れ渡るような仕組みがあったらしい。数分後に男達の動きが怪しくなり、とうとうターゲットの死体も発見されてしまった。
わらわらと湧いてくる男達から逃げているうちに建物の奥深くまで来てしまった。ここから逃走用の出口までは遠い。刹那は苛立たしげに舌打ちした。
「おい、いたぞ! そこだ!」
出てきた男達が刹那に向かって銃を乱射する。物陰に隠れて銃弾が過ぎるの待ってから違う物陰へと飛び出した。走り際、男達に向かってナイフを投擲。何本かが当たったらしく、うめき声が聞こえ銃声が止んだ。
今がチャンスとばかりに床を蹴って跳躍する。数人の男が手や足から血を流しているのを横目に、まだ動けそうな男をナイフで殺す。最後の一人の首をナイフで掻っ切って、ようやく一息ついた時だった。
一発の銃声。瞬間、左足からの熱い痛み。
「う・・ぐぁ」
膝を着き足を見ると、撃たれていた。太い血管には当たっていないからさして深い傷ではないが、これでは逃げるのに支障が出てしまう。振り返れば、銃を構えた数人の男が近寄ってくるところだった。
こんなところで死んで堪るものか。近寄るなと言わんばかりに刹那はナイフを投げた。だが傷ついた身体で出来る抵抗などたかが知れている。再び銃声が耳を貫き、今度は右腕に痛みが走った。そのままその場に倒れてしまった。
「おい、殺すなよ。たっぷり痛めつけて仲間の情報を吐かせるんだから」
「分かってるって。お、こいつ女だぜ。よく見りゃけっこういけんじゃねぇの」
聞くに堪えない、下品な声。あんな奴らに触れられるくらいなら、仲間の情報を吐かされアリーを危険にさらすくらいなら。刹那は舌を噛む歯に力を入れた。
ぱん、と乾いた銃声とともに目の前の男が倒れた。
「・・・・・ぇ?」
ぱん、ぱん。連続して聞こえる銃声。うろたえたまま死んでいく男達。身体が訴える痛みに意識が薄れていく中見えたのは。
「ロックオン・ストラトス・・・・・?」
今まで見た事もない冷たい目をしたまま銃を構える、ロックオンの姿だった。