雨が少ない中東地域特有の硬く乾いた大地を蹴って走った刹那は、まっすぐ自分へと飛んできたナイフを難なく叩き落とした。それを投げた男の驚愕に満ちた顔を見つめながら、あぁ、こいつもこの程度なのかと落胆した。もちろん、顔にはこれっぽっちも出さないで。


 そろそろ、このお遊戯も終わりにするか。


 目にも留まらぬ速さで男の懐へと飛び込んだ刹那は、相手の手首を蹴り上げて持っていたナイフを弾き飛ばした。男がひるんだ隙を見逃さず、背後へと回り込んでわき腹へとナイフを突きつける。


 「動くな」


 女ながらに低くどすの利いた声でささやくと、男は大人しく負けを認めた。それを確認すると、刹那はさっさと男から離れた。


 その瞬間、周りで成り行きを見守っていた男たちから野次やら何やらの声が飛ぶ。


 「やっぱ刹那の勝ちか」


 「ま、そうだろうな。あいつこん中じゃ一番つえーだろ」


 「MSの操縦も上手いし、ホント敵わねぇよな」


 「もうちっと女らしさがありゃ完璧なんだけどよ」


 ドッと沸いた下品な笑い声にも、刹那は興味がないと言わんばかりに無視した。いつもだったらナイフを投げつける程度の事はしただろうが、今の刹那はそんなくだらない事に関心を示すほどの心の余裕はない。ぶっちゃけ、不機嫌なのだ。


 理由は簡単。先ほど戦った男が弱かったからだ。こういった、仲間同士での練習試合のようなものは今まで何度もやってきたが、未だに刹那を満足させた男はいない。





 あの男をのぞいては。