まどろみから覚める感覚は、例えれば水面へと浮き上がるのと似ている。


 瞳を閉じたまま、ロックオンは両手をシーツの上へとさまよわせ、眠りに落ちるまでは確かにこの両手でしっかりと抱きしめていたはずの存在を捜す。


 「ん、せつな・・・・」


 寝起き特有のかすれた声で呼ぶも、それに対する返事はない。その瞬間一気に覚醒したロックオンは飛び起きて辺りを見回した。


 ロックオンの不安とは裏腹に、刹那はすぐ近くにいた。ベッドの脇の立っている彼は着替えの途中だったのかズボンだけはいた状態で、裸の上半身には昨夜の名残である所有痕が散っているのが良く見える。


 「せつ」


 呼びかけようとして、声が止まった。


 ロックオンが呼ぶよりも早く振り返った刹那の表情を、ロックオンは呆けたように見つめた。


 まるで、氷で出来た彫刻のよう。


 冷水でも浴びたかのように、ロックオンの身体が震えた。ぞくり、と肌がいっせいに粟立つ。


 薄暗い室内できらりと、彼の瞳が光った。


 (あれ、刹那の目って、金色だった、け・・・?)


 彼は、誰? 


 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 彼は、誰? 


 「ロックオン」


 「っ!」


 「どうかしたのか?」


  ざくろのような赤褐色の瞳でこちらをのぞきこんでくるのは、まぎれもなく刹那だ。なんでもない、と答えた瞬間一気に体中の力が抜けた。肺が呼吸を忘れていたかのように、酸素が脳内へと浸透していく。


 「ロックオン。そろそろ着替えないと、時間に遅れる」


 「あ、ああ・・・・そうだな」


 投げつけられた制服に袖を通しながら、ロックオンは悪い夢の残像だと思うことにした。数回頭を振って、その残像を蹴散らす。


 現(うつつ)だとしてしまうには、あまりにも酷なことで。


 しかし夢だとしてしまうには、あまりにもリアルだったけれど。


 ロックオンは努めて冷静に、全てを夢だと決めつけた。