食堂に行くと、フェルトがひとりで食事を取っていた。毎日決まった時間に食事をする彼女にしては、珍しい光景でもあった。刹那の視線に含まれた疑問を感じ取ったのか、苦笑しながらフェルトは言った。


 「データ整理してたら、少し遅れちゃって。刹那もお昼ご飯?」


 「・・・・正確には、朝食になる」


 ぼそり、と告げた言葉にフェルトの瞳が驚愕に見開かれる。嘘、と彼女の唇が音をたてずに動いた。


 「まさか、今まで寝てたの?」


 「・・・・・不本意ながら」


 「・・・・昨日の夜、夜更かしした?」


 「していない。したとしても、絶対に起きられる自信があった」


 昨日までは、と心の中で付け加える。その自信を砕かれた羞恥心から、刹那は苛立ちまじりにランチにフォークを突き刺した。


 「今日はミーティングもなかったし。たまにはいいんじゃない、こんな日があったって」


 「・・・・・マイスター失格、だろうか」


 「大丈夫だって。私なんて、アラームをセットしてもなかなか起きられないんだよ」


 落ち込む刹那をフェルトは懸命に励ます。刹那は昨日を思い返すが、ミッションもなかったうえに書類整理などもしていないから、疲れていたはずがない。


 「ダブルオーライザーが追加されてから、刹那忙しかったでしょ? きっと身体に疲れが溜まってたんだよ」


 ダブルオーライザーがイアンやスメラギの予想を遥かに上回る性能を発揮したため、それを装着したダブルオーガンダムが中心となるミッションが倍増した。当然、乗り手である刹那の疲労も倍増することなる。


 「クロスロードさんも、ミッションが増えたうえに整備やらなにやらで忙しいって言ってたよ。それに今日は珍しくミーティングもミッションもないし。休める時に休んでおくのも、マイスターの務めだと思うよ」


 「そうだろうか」


 「そうだよ」


 フェルトの言葉に、刹那はこれから先の予定を脳内に浮かべる。明日から連続でミッションが入っており、休めるのは今日くらいしかない。


 「なら、今日一日はゆっくりすることにする」


 「そうしたほうがいいよ。ごちそうさま」


 フェルトは行儀良く手を合わせて礼をすると、食べ終わったトレーを回収口に提出し、食堂から退出した。


 「あ、そうだ、刹那」


 去り際、フェルトが唐突に口を開いた。


 「私のバスソルト、使ってみる? リラックスできるから、疲れも取れるだろうし」


 「・・・・遠慮しておく」


 いくら疲労回復の効果があろうと、男である刹那がいかにも女性用といった製品を使うのには多少抵抗があった。刹那が断りを入れると、フェルトは残念ね、と言いながらも全く残念に思っていないような顔で去っていった。


 残された刹那はランチを口に運びながら、今日これからのことを考えた。今日のようなミッションもミーティングもない日は、たいていのクルーは自分のやりたいことをやる。許可さえ取れれば、街に出ることだって出来る。


 「・・・・食べ終わったら、休むか」


 休日は一日中トレーニング、な刹那にしては、珍しい、本当に珍しい一言だった