ソラン、と呼ぶ声が聞こえた。


 最初は母だと思った。また、マリナ・イスマイールにも似ていた。そしてなぜだろう、ニールだという気がしてきた。


 (だれ、だ)


 別にその三人であった欲しいわけではなかった。自分が知っている人物なら誰でもよかった。そう、例えばあのユニオンのパイロットだったり、極端に言えば、アリー・アル・サーシェスでもよかった。


 手を伸ばす。けれどその手が相手に届くことはないと、最初から刹那は知っていた。意味はない。理由もない。けれども刹那は手を伸ばす。その指先が、相手に触れることを夢見ながら。


 夢見て、そうして。


 唐突に、夢から覚めた。











 自室のベッドの上、中に片手を伸ばした奇妙な格好で。


 刹那は大きくまばたきすると、手を下ろした。なんだろう、ずいぶんとおかしな夢をみていたようだ。だがしかし思い出そうとすればするほど、まるで砂がこぼれていくかのように、夢の残滓が消えていく。


 結局、あの声は誰だったのか。


 答えはきっと、永遠にでないまま。


 いいようのないもどかしさを感じながらも、刹那は身支度を終えると、時計に目をやった。昔の訓練で、刹那を含むマイスター全員は目覚ましをかけずとも己の体内時計で毎日決まった時間に起きる事が出来る。空腹も感じているし、今日もまたいつもの時間に起きられたのだろうと、そう確信して時計を見た刹那の目は大きく見開かれた。


 宇宙でも一秒たりとも狂わない電子時計、そのディスプレイに映された時刻は、普段の起床時間を大幅に過ぎた、正午過ぎであった。