心臓が凍る思い、というのはこういう事を言うのだろう、とティエリアは呆然と実感した。
ケルディムガンダムとアリオスガンダムに支えられた、ダブルオーガンダムを見つめながら。
わけがわからない、という表情をする刹那をティエリアは睨めつけた。先ほど刹那に言った言葉を、再び紡ぐ。わかりやすいよう、はっきりと区切って。
「き・み・は・ば・か・か」
「うるさい」
馬鹿、と言われたのが気に食わなかったのか、刹那はぶそっとした顔で返した。21歳になったくせに、そっぽを向く姿は16歳の時と何も変わってはいない。
「ダブルオーのデータを見せてもらった」
びくり、と刹那の肩が震えた。
「確信した。君は真性の馬鹿だ」
「・・・・・人のことを馬鹿だ馬鹿だとうるさい」
「黙れ」
苛立ちを隠そうともしていないティエリアの声に、刹那は押し黙った。ティエリアはイスに腰掛ける刹那の、包帯が巻かれている肩をつかんだ。
「正体不明のMSを追いかけて、あげくのはてには身体までさらして。その結果がこれか。君は4年前から何も変わっていないな」
「・・・・・・迂闊だったと、反省している」
「君は何も、分かっていない」
ティエリアが吐き出すかのように、そう言った。美貌を歪めるその様は、まるでかんしゃくを起こした子供のようだ、と刹那は思った。
「あの時の、崩れ落ちるダブルオーガンダムを見た時の、僕の気持ちなんか君は考えていないのだろうな」
「ティエリア・・・・?」
刹那の肩を掴んでいた手が、頬へと滑るように移動した。慈しむかのように、その頬を撫でる。
「コックピット内で血塗れになって気絶していた君を見た時の、僕の気持ちなんか君は考えていない。擬似太陽炉のGN粒子で死んでいたかもしれなかったと診察が下った時の、僕の気持ちなんか君は考えていない」
「ティエリア・・・・・」
「君とはぐれて、僕がどれだけ心配したかなんて君は考えていない」
そこで刹那はようやく、自分が彼に言うべき言葉を間違えたのだと悟った。
「僕が」
「ティエリア」
気持ちを吐き出す彼の背中に手を回して、ぐいと抱き寄せた。触れる体温が、自分が生きている事が嬉しいと思った。
「心配かけて、すまなかった」
「・・・・・・」
ティエリアはまだまだ言いたいことはたくさんあるのに、言葉が喉に詰まってしまったような、そんな奇妙な顔をした。その顔が面白くて、刹那はくすりと笑った。
心配かけてごめんなさい。次は言われなくてもその言葉が口から出てこられるようにしよう。そんな事を、ぼんやりと思った。
心臓の氷は溶けました