一目見たときから欲しかった。
だけど、すでに彼女は人の物で。
あぁ、それでも関係ない。
奪えばいい、それだけのこと。
夜もどっぷりふけた頃。皆が寝静まっているだろう時間帯だというのに、ライルはベットの上に寝転がったまま、その翡翠色の瞳で天井を凝視していた。
「・・・・そろそろ、か」
暗闇でも良く見えるよう指針に蛍光塗料が塗られた腕時計で時刻を確認すると、勢い良く起き上がった。
部屋から出ると、極力物音を立てないように慎重に歩く。どこか行きたい場所があるわけではない。ただ、こうしていれば彼女に会えるから。
「見ーつけた」
それを確認した瞬間、唇の端を吊り上げて笑う。どうどうと前から近づいていくが、彼女は気付いていないのだろう、反応を示さない。
昼間とは違う、生気の抜けた虚ろな瞳。寝巻き姿でどこか遠くを見ながら歩いている姿は、普段の彼女とは思えない。
「刹那」
目線を合わせるように顔を覗き込む。一瞬だけ、赤褐色の瞳に光が見えた。
「どうしたんだ? こんな夜中に。眠れなかったのか?」
「あ・・・ロック、オン」
その呼びかけには応えず、ただ笑顔で刹那を抱きしめる。あの男と同じように。
「・・・ロックオン・・ロックオン・・・・」
すがり付いてくる少女の頭を優しく撫でながら、ライルは哂った。その表情を刹那が見たら違和感を覚えるだろう。彼は、こんな顔はしない。
「おいで、刹那。眠れないなら添い寝してやるよ」
応えはない。彼女はひたすらあの男の名前を呟いているだけ。ライルは刹那をお姫様抱っこして、自室へと戻り始めた。
知っていた。彼女が彼を求めていることを。
それでも、彼女は決して自分を見ようとはしなかったけれど。
あぁ、やっと堕ちてきてくれた。