生まれたときから絶えず二人は一緒だった。


 好きになる食べ物も、おもちゃも、何もかもが一緒だった。


 そう、何もかもが、一緒だった。
































 

















 俺達と刹那が出会ったのは今から5、6年くらい前のことだと思う。


 あの頃刹那はまだ小学校に入ったばかりくらいの年で、小さな身体が更に小さく頼りなかった。


 引越しの挨拶に来た刹那の両親の背に隠れるようにして、こちらの様子をじっと窺っていたのを覚えている。


 ニコリともしないガキの大きな赤い瞳がやけに印象的だった。


 その時不在だったニールが刹那の存在を知ったのは、それから数日後だった。


 ニールは、もう一人弟が出来たみたいだ、と酷くはしゃいでいたのを記憶している。


 近所には刹那と年の近い子供は居なかったので、必然的に俺達と遊ぶことになった。


 面倒見の悪い俺は刹那の相手をニールに押しつけ、全然心を開こうとしない刹那に四苦八苦するニールをからかって遊んでいた。


 傍から見れば全然仲良く遊んでいるように見えなかったが、それでも刹那と俺達は、月日を重ねるごとに本当の家族のように親しくなっていった。








 それから数年後、刹那の両親が事故で亡くなり、俺達の家に居候するとこになった。


 突然の両親の死を、刹那は泣きもせずただ受け入れた。


 ニールは、せっかく開いた刹那の心が再び閉ざされてしまうのではないか、と恐れ出来るだけ刹那の側に居るようにしていた。


 それがあってか、刹那は心を閉ざすことをせず、今までの日々が続いた。


 けれどもある日。


 ニールが居ないある日の午後、俺は刹那がこっそり泣いているのを見てしまった。


 成長しても尚赤く大きな瞳から、はらはらと涙を流し、声を殺して泣く刹那の姿が酷く痛々しくて。


 気がついたら俺は、無言で刹那を抱きしめ頭を撫でていた。


 刹那は俺を見上げ、数回瞬きをすると、意外にも素直に胸に身を預けてきた。


 きっと、きっかけはこれだったのだと思う。


 この時から、俺は刹那が酷くいじらしく、酷く可愛らしいと思うようになった。


 いつも無表情の刹那が泣いたり笑ったりする姿に激しく胸が高鳴るようになった。


 それは、紛れもなく恋と形容する感情だった。














 「あれ、刹那」


 それから数年後。俺とニールは大学生に、刹那は中学生になっていた。


 夕飯の買い物を済ませ家路を歩いていると、前を歩く刹那の姿を見つけ声をかける。


 「ライル…。買物の帰りか」


 「ああ。今日は刹那の好きなシチューだよ」


 刹那はここ最近でかなり身長が伸びた。


 ニールは、俺の可愛い刹那が大きくなるなんて!と喚いていたが、刹那本人的には。まだまだ伸び足りないようだ。


 いつのまにか、俺の胸ぐらいの高さまで伸びていた。


 「学校はどうだった?」


 「…数学のテストがあった」


 「刹那は数学苦手なんだよなー。ニールに教えてもらうといいよ」


 「…お前、大学は数学専攻じゃないか。それなのに何故ニールに?」


 「俺より、恋人に教えてもらった方が刹那も嬉しいと思って」


 含んだように微笑むと、刹那は耳まで真っ赤になった。














 「ライル…どうしよう。俺、刹那のことが好きみたいだ」


 ある日の夜、ニールは突然そんなことを俺に打ち明けた。


 「刹那は大事な家族だけど、でも、家族としての『好き』とは違う感情なんだ。なぁ、俺どうすればいいかな…?」


 双子である俺達は産まれたときから絶えず一緒だった。


 好きになる食べ物も、おもちゃも、何もかもが一緒だった。


 そう、好きになる人さえも、一緒だった。


 「…喜べニール。ライル様の鋭い勘だと、刹那もお前のことが好きだぜ。お前と同じ感情の『好き』って意味で」


 俺は、おそらくニールよりも刹那のことをずっと見つめ続けていた。


 何時しか刹那は、ニールと手が触れた瞬間、目と目が合った瞬間、頬を赤く染めるようになった。


 それは紛れもなく、恋という意味での『好き』だということを、俺は無意識のうちに悟った。


 「だから、素直に気持ちを伝えろよ。お前らお互いに好きあってるんだからさ」


 ニールは、ありがとう、と一言云うと刹那の部屋に向かった。


 それから後の二人は、現在の状況に至るという訳だ。














 「おーいライル、刹那!」


 不意に呼ばれた声の方を向くと。


 学校帰りのニールが後ろから走ってくる。


 刹那の頬が赤く染まったのを、俺は見逃さなかった。


 「さて、ダーリンが来たことだし、二人でゆっくり帰ってこいよ。俺は夕飯作っておくから」


 追いついたニールに軽く蹴りをくらわし、足早に家へ向かう。


 「おい、蹴るなよライル!…ったく、何であいつはいつも反抗的なんだ…」


 ニールの声を無視し、歩みを早める。


 あはは、と軽く笑った刹那の声に振り向くと。


 後ろを歩く二人の手は、確かに繋がっていた。


 繋がれた二人の手を背に、気づかれぬよう溜息を吐いた。


 嗚呼、もう冬が近い。


 寒さが身にしみるなぁと思いながら夕焼け空を見上げた。











 END.











孤独を纏うの帳サハラ様より二万ヒットお礼リクとしていただきました。


もうほんと、片想い最高! って叫びたくなります。


 帳サハラ様、本当にありがとうございました。