授業終了のチャイムが鳴った瞬間、学校は戦場へと変化する。
刹那は教師が帰りの挨拶をしたのを確認すると、教科書を鞄の中に突っ込みすぐさま教室の出口へとダッシュで駆けた。
そのままの勢いを保ったまま、出口付近で両手を広げて「さぁ、刹那。今日こそ私と一緒に帰ろう」と微笑んでいるグラハムの顔面に鞄(荷物が詰まっていてけっこう重い)を振り下ろした。
何かがつぶれるような音をたてて崩れ落ちたグラハムを確認すると、刹那は急いで廊下を走った。スカートがひるがえってかなり危ういのだが、そんなことは気にしない。
「こーら、廊下は走っちゃいけないんだぞー」
「ロックオン・・・・・」
曲がり角からひょっこり姿をあらわした男に刹那は盛大に舌打ちをした。
「せーつな、一緒に帰ろうぜ〜」
「断る」
間髪をいれずに出された答えに、ロックオンはがっくりとうな垂れた。毎度毎度断られているのに、よくもまぁ毎日諦めず・・・と刹那は思う。その気力を何か別の物へとまわせばいいのに。
「話は終わりか? だったらそこをどけ。俺は急いでいるんだ」
刹那が邪魔くさいと思いながらも、ロックオンの隣を抜けようとすると、いきなり腕を掴まれた。
「せーつーなー。毎日急いでどこ行くんだよ?」
「うるさい! お前には関係ないだろ! 離せ!」
ぶんぶんと腕を振り回すが、女である刹那の力ではどうすることも出来ない。
こうなったら鞄で顔面を殴り倒して強行突破するか・・と物騒な作戦を実行しようとしたときだだった。
突然、無事なほうの腕を誰かに掴まれて引っ張られる。予想外の抵抗にロックオンも思わず腕を離してしまった。
「刹那、こっちだ」
聞き覚えのある声と風に舞う紫の髪を確認すると、刹那は脇目も振らず走った。
追いかけてくるロックオンから逃げるために刹那達は校舎内を駆けずり回った。その努力のかいあってか、なんとか逃げ切る事に成功したようだ。
「ここまで来れば問題ないか」
「そうみたいだな。ありがとう、ティエリア」
礼を言うと構わない、とティエリアは笑った。その顔に刹那も安堵の表情を浮かべた。
「今のうちにここの窓から行ったほうがいい。ほら、刹那の靴だ」
「ありがとう。下駄箱のほうはどうだった?」
「復活したグラハムがうろうろしていた」
かなり力いっぱい殴ったのだが・・・・。グラハムのすさまじい回復力に刹那はため息をついた。
辺りに誰もいないことを確認すると、刹那は勢いよく飛び降りた。一階の窓からなので、飛び降りても怪我などしない。
「刹那」
呼ばれたので振り返ると、ちゅっと音を立てて額に何か柔らかい物が当たった。一瞬だったのでよく分からなかったが、ティエリアの嬉しそうな顔がすぐ近くにあって驚いた。
「がんばれよ」
「あ、ああ」
わけが分からぬまま、とりあえず刹那は走り始めた。人気のない道を選んで駆け抜け・・・・ようやく見えてきた人影に手を振った。
「ハレルヤ!」
自転車に寄りかかっていたハレルヤはその声に気付いて手を上げた。
「おっせー」
「すまない、色々と邪魔がはいったんだ」
ハレルヤは怒る事もなく、刹那の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜると、「乗れよ」と刹那自転車の後ろに乗るように促した。
「で、その邪魔は片付いたのかー?」
「ひとまずは。ティエリアに助けてもらったから、今度礼をしないとな・・・・」
「あーあいつ? んなもん、一言ありがとよって言っとけばいいだろ」
「ダメだ。かなり世話になったのだから・・・・クッキーでも持っていくか?」
「・・・・俺の分もあるんだろうな」
「何当たり前のこと言ってるんだ?」
ハレルヤは知らない。刹那がこの為だけに、毎日戦場を駆け抜けていることを。