それを告げた時、彼は酷く驚いた顔をした。


 そして、なぜか「なんでもっと早く言わなかったんだ」と言われた。


 なぜか、と訊かれれば興味がなかったから、だ。


 刹那にとって、己の誕生日などその程度のものなのだ。












 「遅い」


 刹那は隠れ家として使用しているマンションの自室で、苛立たしげにそう呟いた。三日前、ロックオンからこの日に来ると連絡があった。特に用事もなかったので、刹那もそれを了承したのだが。


 約束の時間からとうに三十分は過ぎた。刹那はイラついた視線で時計を見つめる。とりあえず、ロックオンが来たら顔面に何かを投げつけてやろう。出来れば硬くて重いものが良い。


 ごそごそとその何かをあさっていた刹那の耳に、ピンポーンというチャイムの音が聞こえた。


 すぐさま手元にあった小型の折りたたみ式イスを手にとって、扉を開けた瞬間、


 目の前が桃色に染まった。


 驚いて硬直した刹那は、それが大量の桃色のカーネーションだということにしばらくかかった。


 「どーだ。びっくりしたか、刹那?」


 やけに楽しそうなロックオンが顔を覗かせる。「あ、これお土産なー」と渡されたのは近所では有名なケーキ屋の箱。


 「ろ、ロックオン?」


 「ハッピーバースディ、刹那」


 言われた台詞の意味が理解できず、刹那は戸惑う。


 だって、今まで誕生日を他人に祝ってもらったことなんてなかったから。


 自分ですら、祝ったことがなかったから。


 右手にカーネーションの花束を、左手にケーキ(だと思われる)箱を持って、刹那は呆けた顔を喜色に染めた。


 「・・・・ありがとう」


 「どーいたしまして。あ、ついでに教えとくな」


 まるで秘め事をささやくかのように、刹那の耳に唇を寄せるロックオン。吐息が耳に触れて、刹那はくすぐったげに身をよじらせた。


 「桃色のカーネーションの花言葉は『熱愛』ってこと」


 ささやかれた言葉に、刹那は微笑んだ。












 ありがとう、俺をこの世界に生んでくれて。


 ありがとう、この人と会わせてくれて。