刹那が愛した人は、本来いてはならない人。
だけど、刹那は彼が愛しくてならない。
だから、日々願う。
どうか、『彼』が消えてしまわないように。
真夜中、唐突に部屋にやってきた刹那に、ハレルヤは驚いた顔をした。
「珍しいな、お前から来るなんて」
からかいを含んだその声に刹那は何の反応も示さなかった。まっすぐハレルヤの元へ行き、その胸に顔をうずめる。
ハレルヤは黙って刹那のしたいようにさせていた。なぜか刹那は、ハレルヤが出てくる時が分かるかのような行動をとる。愛のなせる業か、と自分らしくない考えをハレルヤは哂った。
「昔のユメを見るのが怖い」
唐突に発せられたそれが、ハレルヤに向けてなのか、単なる独り言なのかは分からない。相槌がわりにくしゃくしゃの頭を撫で、促す。
「あの頃も、ヒトが死んでいた。みんな、神になるために死んでいった。死を恐れるような発言をしたら、神を侮辱するなと咎められた」
ハレルヤはCBに来る以前の刹那が何者だったかは知らない。だが、子供ながらに殺し合いに長けていることから、大体の予想はつく。
「死の果てに神はいないのに。死ぬ事が崇高な行為であるわけがないのに」
俺たちは狂ってたのか、と誰かへと問いかけたその言葉に答えられる者はいない。
すがりついてくる少女の体温を、ハレルヤを嬉しく思った。このぬくもりは、少女が生者であることの証拠だ。彼女が神のもとへ行く事を拒み、生を掴み取ったなによりの証なのだ。
そのことが、ハレルヤには嬉しくてならない。
「本当に狂った奴は恐怖を感じねぇ。お前は違うだろ?」
己の胸元に顔を押し付けている刹那の耳に唇を寄せると、触れた息がくすぐったいのか、刹那は身をよじらせた。それでもこくんと頷く、その仕草が愛らしい。
「寝てろ」と刹那をベットに転がし、上からばさっと毛布をかける。もぞもぞと抵抗する様子があったが、そのうち大人しくなった。
刹那の邪魔にならないように、ベットの隅っこで丸くなるハレルヤ。離れていないと、襲わないでいる自信がない。
そろぉと毛布から顔を出した刹那は眠るハレルヤの顔を盗み見た。
神を褒め称える名を持つ彼。精神だけという、あまりにも不確かな存在。
刹那は神など信じていない。だから、神に祈ることなんてしない。
己の力で、望みをかなえる。
少しでも長く、彼といられるように。