刹那は戦っていた。相手はフラッグやテェイレンよりも手強い。だが、負けるわけにはいかない。自分はソレスタルビーイングのガンダムマイスターなのだ。たとて、敵がどんなものでも。


 深呼吸をし、目の前の敵・・・・・真っ白な皿に乗っかった緑色の物体、俗に言うピーマンを見つめた。


 そして。


 「やっぱりいやだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 「逃げるな、刹那・F・セイエイ!!」


 逃走を図った刹那だが、すぐさまティエリアに捕らえられ、ずるずると席に戻された。


 すぐ隣の席でそれを見ていたハレルヤは、


 「・・・・なにしてんだ、お前ら」


 呆れたようにそう呟いた。








 問題は刹那の好き嫌いの多さだった。


 今までファーストフードばかり食べていたからなのか、刹那は嫌いなものはとことん残すタイプだった。


 「ガンダムマイスターたる者、自分の健康管理も出来ないようではマイスター失格だ!! さあ、食べろ!!」


 どんっと目の前に置かれたピーマン(一応焼いてあるようだが、他に調理方法はなかったのだろうか。さすがに焼いたピーマンだけというのは、刹那でなくてもキツいと思う)を心底嫌そうに見つめる刹那。


 「せめてソースかけてやれよ・・・・」


 「ソースでも苦味が消えない」


 どうやら苦いのが嫌らしい。というか、刹那が嫌いなのはピーマンだけではない。ニンジンや玉ねぎやナスなど、子どもが嫌いとされる野菜がほとんど駄目だった。


 「さあ、早く食べろ!!」


 「いやだっ! そんなもの食べなくても大丈夫だ」


 「そんなわけないだろう! 無理矢理口に入れてやろうか!?」


 ティエリアがさらりと怖い事を言った。彼なら本気でやりかねない。


 刹那もそれを理解したのか、びくっと身体を震わせると・・・・・


 「ハレルヤ、助けてくれ!!」


 「へっ!?」


 「こら、逃げるな!」


 驚いたのは、泣きつかれたハレルヤである。


 普段そっけない刹那が自分を頼ってくれるのは嬉しい。だけど、ゴゴゴゴという地獄の底から響いているかのようなBGMを背負って立っているティエリアを敵に回したくない。


 「ハレルヤ、刹那を甘やかすな!!」


 「いーやーだー。そんな苦い物、食べれるわけないだろう!!」


 「わがままを言うな! コラ、待て!!」


 逃げ出す刹那とそれを追いかけるティエリア。皿の上には放置されたままのピーマン。


 ハレルヤはこの場からダッシュで逃げ出したくなった。だが、刹那があまりにも可哀想だ・・・・というか、頼られたのだから放ってはおけず。


 ティエリアにばれないよう、こっそりとピーマンをダストシュートに入れると、さっさとその場から逃げ出した。






 分かってる。甘やかしてはいけないと。


 だけど、惚れたものは仕方ないだろ。